昨日、久しぶりにテレビをつけた。今年に入って自宅で初めて一つの番組を観た。BSのNHKの番組で『明日世界が終わるとしても「虐殺を越え“隣人”に戻るまで ~ルワンダ・佐々木和之~」』という番組だ。昨日(正確には今日)の深夜まで原稿を書いていたので、録画したものを見たのだが、非常に興味深った。
ルワンダといえば、1994年のジェノサイドが有名だ。ベルギー人が植民地支配のために創り上げた「フツ族」と「ツチ族」という二つの民族。多数派のフツ族がツチ族を殺戮した。100日間で80万人とも言われる人々が殺された。僕は、共産主義、ナチズムという二つの全体主義とともに、このジェノサイドに関心を抱き続けている。何故、昨日まで平和に仲良く暮らしていた隣人を殺戮できるのだろうか、という疑問を抱き続けている。
今回の番組で興味深かったのは、ルワンダの農村地域では、ジェノサイドの加害者と被害者とが同じ村の中で生活を続けていかねばならないという事実だった。同じ村の中で被害者は加害者と共に生活しなければならない。それは、被害者が加害者をいかに扱うべきなのか、加害者が過去の罪といかに向き合うべきなのかという問いを突きつける。和解と共存という困難な問題だ。
時が流れようとも、被害者の心の傷は癒えない。幼馴染の友人の一族がが武装して、自分たちの家族を襲撃した。
助けてくれと命乞いしたにもかかわらず、次々と家族が殺戮された。自分自身も顔に大きな傷を残され、結婚すら出来なくなった。自分の人生はあのジェノサイドで終わってしまったのと同然だ。あのとき、現場で命乞いをしたにもかかわらず、彼らは決して赦そうとしなかった。今になって自分の過去の所業を赦してくれというのは、虫がよすぎる。仮に今、自分自身が生き延びていなければ、謝罪などできなかっただろう。
被害者の主張はもっともだ。これに対して、加害者は「あの時は、そうするより外になかった」と繰り返すばかりだ。
もどかしい思いがするが、果たして、加害者は、これ以上、何を言えるのだろうか。
時代の狂気が人々を飲み込み、大量殺戮に駆り立てた。理性を失った大人たちを模倣した子供たち。行動は残虐を極めたが、彼らとて、平和な日本に生まれていたら、ささやかな生活をおくっていたのではないか。逆に、平和な日本に生まれた我々が、あの時代のルワンダに生まれ、育っていたら、大量虐殺に手を染めなかったと断言できるだろうか。
私はこの問題を考えると、いつもアレントの『イェルサレムのアイヒマン』を思い出す。
ルワンダの過酷な事実に向き合い、自分自身の人生をかけて「和解」とまではいえなくとも、「共存」のために活動を続ける佐々木和之氏という日本人の存在は、私にとって衝撃的だった。
番組では「たとえ明日世界が滅ぶとしても、私はリンゴの木を植える」という言葉が通奏低音として流れていた。私の座右の銘は「一隅を照らす」。貫くのは同じ精神だろう。佐々木氏の努力は、ルワンダの国家全体からみれば本当に僅かな人々の間で「和解」をもたらすかもしれない、という細やかな努力であろう。もしかしたら、その努力は水泡に帰するかもしれない。だが、それでも個人の出来る限り全力で努力する。この生きざまが素敵だ。
さて、南スーダンの問題で、自衛隊が撤収するすることになった。「交戦権」のない自衛隊を南スーダンに派遣したことが問題なのはいうまでもない。国内では保守もリベラルも南スーダンからの撤収を歓迎する声が多い。
憲法も含め、国内の問題としては、それで結構なのだろう。だが、仮に、今後、南スーダンでジェノサイドのような事態が勃発したら、どうなるのだろうか。
ルワンダ以後、PKOの活動は変化した。だが、憲法九条第二項で「交戦権」を否定している我が国のPKO活動は変化できない。本当にこれでいいのだろうか。日本は人道的な介入について如何にあるべきなのか。そんな問題についても改めて考えさせられた。
編集部より:この記事は政治学者・岩田温氏のブログ「岩田温の備忘録」2017年3月17日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はWikipediaより)。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩田温の備忘録をご覧ください。
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また、先日の「朝まで生テレビ」でもう少し議論したかった南スーダンにおけるPKOの本当の問題点等についても切り込んでいきます。
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