内閣府の、「平成27年度における自殺者の状況」によれば、自殺者総数は2万4025人(男性69.4%、女性30.6%)であり、前年に比べ1492人(5.5%)の減少に転じている。減少は6年連続であり、3万人を下回ったのは4年連続。18年ぶりに2万5千人を割り込んだ。
一方、厚生労働省の、「平成26年患者調査」によれば、うつ病などの気分障害で、医療機関を受診している総患者数は111万6000人と調査以降で過去最多を記録した。調査を開始した平成8年の43万4000人から約2.6倍に及んでいる。
このような概況が起因することになり、ストレスチェック等の新たな試みが施行された。当初は、市場創出の可能性を大いに期待されていたが、未だに効果は見出せていない。私は、その要因の一つが「実態を照射していないこと」にあると考えている。
■ひと言で説明するなら過労死マンガの書籍版
いま、注目されている書籍がある。『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)だ。Twitterで30万リツイートを獲得し、NHK、毎日新聞、産経新聞、ハフィントンポストでも紹介された過労死マンガの書籍版である。
著者は、汐街コナ氏。現在、装丁画・挿絵・ゲームキャラクターイラスト等をてがけている。デザイナー時代に過労自殺しかけた経験を描いた漫画が話題になり書籍化にいたった。本記事の画像に使用している漫画の著者といえばわかりやすいだろう。出版社の許可をもらったので印象的な場面を使用した。
監修・執筆は、精神科医・ゆうきゆう氏。今回、過労死・過労自殺する人が「死ぬくらいなら辞めれば」ができない理由をわかりやすく解説している。内容は仕事や会社に追いつめられている人がどのようにすればその状態から抜け出し、自分の人生を大切にするための方法と考え方がまとめられている。
本書は、汐街コナ氏の体験が漫画として展開されており、それを、ゆうきゆう氏がわかりやすく解説している。例えば、汐街コナ氏の、当時の残業は90~100時間。毎晩走って終電に飛び乗っていた。身も心も疲れ果てたときに、地下鉄のホームでふと思ったそうだ。
ホームに入ってくる地下鉄に向かって一歩を踏み出せば、「明日は会社に行かなくていい」と。一瞬、素晴らしいアイデアだと感じたそうだ。このような突発的な行動をとりかねないこと。踏みとどまったのは、意思ではなくタイミングであったことがわかる(つまり、たまたま思いとどまったにすぎない)。
長時間労働は思考力を奪い視界を暗くしていく。そして、自分が気づかないうちに進行してしまう、うつの症状や、自殺するくらいなら会社を辞めるという判断力を失ってしまう危険性を示唆している。「自分はまだ大丈夫」と思っている人がいちばん危険である。
また、「少し働きすぎかな」、「ちょっと楽になりたいな」と思っている人は、自らの仕事ぶりをきっちりと振りかえる必要性がある。
■自分をすり減らさない方法をみつけること
「頑張っている」のに思うように成果が出ないとき、単純に「もっと、頑張らねば」と思ってしまうことがある。ところが、これは過労と同じで、疲れている程、忙しい程、頑張ろうと思ってしまうものだ。
「できない」には理由が存在する。そのすべてが努力で解決できるとは限らない。頑張ることが目的となってしまっては意味が無い。大事なのは「できるようになること」だと、汐街コナ氏は声を大にする。そして、自分をすり減らさない方法はきっとあると。
実体験を精神科医が解説する内容には、従来の本とは違ったリアリアティがある。現代社会で働く多くの人に必読の1冊ともいえよう。
尾藤克之
コラムニスト
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