昨年、6月6日に、「ストレスチェックの悪魔」という記事を投稿した。これは、厚労省が規定したストレスチェック診断の問題点を指摘したものである。転載先のYahoo!ニュースなどで話題になった。
ストレスチェックの制度や意義はわかるものの、問題点については当初から明らかだった。施行後、2年目にはいったが成果が見えてこないのは、制度上になんらかの瑕疵があるからにほかならない。さらに、導入側の機運が高まっていない。導入側が動かない以上、参入側にとってもマーケット開拓は難しい。
なぜ機能しないのだろうか。答えは明白である。それは、現状を知らなさ過ぎる点にある。現状を把握していなければ、素晴らしい制度でも絵に描いた餅になってしまう。制度を構築する際、産業医、保険師、社労士の意見は聞いたはずである。
しかし、心の病を発症した人の立場になり、直接ヒアリングをしたという話は聞かない。さらに、このような社会性の高い事業は「社員や会社にとってどのような貢献ができるのか」という大義をもっと考える必要があったように思う。
■いままで見たことがない過労死マンガの書籍版
いま、注目されている書籍がある。『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)だ。Twitterで30万リツイートを獲得し、NHK、毎日新聞、産経新聞、ハフィントンポストでも紹介された過労死マンガの書籍版である。
著者は、汐街コナ氏。デザイナー時代に過労自殺しかけた経験を描いた漫画が話題になり書籍化にいたった。本記事の画像に使用している漫画の著者といえばわかりやすいだろう。出版社の許可をもらったので特徴的な画像を使用した。
監修・執筆は、精神科医・ゆうきゆう氏。内容は、仕事や会社に追いつめられている人がどのようにすればその状態から抜け出せるのか。自分の人生を大切にするための方法と考え方が、わかりやすくまとめられている。
内容は、汐街コナ氏の体験が漫画として展開し、ゆうきゆう氏がわかりやすく解説している。長時間労働は思考力を奪い視界を暗くしていく。本書では、うつの症状や、自殺するくらいなら会社を辞めるという判断力をも奪ってしまう危険性を暗示しているのである。
■精神的に病むことは誰にでも起こりうること
ゆうきゆう氏は、本書で「精神的に病むことは誰にでも起こりうること」だとしている。
「『精神的に病むのは、自分が弱いからだ』と考えてしまう人は多いですが、そんなことはありません。国立精神・神経研究センター精神保健研究所の調査によると、現在の日本では、5人に1人が精神疾患にかかった経験があるとされています。心を病むというのは、日本人の多くに起こりえることなのです。」(ゆうきゆう氏)
いまだに精神論を持ち出す人は多い。「精神的に病むのは、自分が弱いからだ」と。しかし、うつになったとしても、「自分は心が弱いからだ」と思って、気持ちを追い込む必要はまったくない。
「実際、精神に関わる疾患の要因は、『遺伝』と『環境』が半々だと言われています。遺伝とはつまり、その人に元々備わっているもの。環境とはその人がどのような生活を送ってきたか、送っているか。たとえばストレスの強すぎる環境にいれば、どんな人でも精神的に追い込まれ心の病気になる可能性は大きく上がるのです。」(ゆうきゆう氏)
「もちろんストレスの強い環境でも元気な人はいるので、「環境だけ」とも言い切れず、結果的に『遺伝と環境。半々では?』とされています。」(同)
■精神疾患の正しい理解が必要である
自分では「頑張っている」のに思うように成果が出ないとき、自分を追い詰めて「もっと、頑張らねば」と思ってしまうことがある。しかしこれは危険な兆候である。
「『何があっても絶対大丈夫な人』は存在しないのです。したがって、精神的に落ち込むことが続いたり。メンタルクリニックにかかることがあったりしても。『自分が弱い』なんて気に病む必要はないのです。」(ゆうきゆう氏)
著者の体験を精神科医が解説する内容には、リアリティがある。現代社会で働く、仕事に追われるすべての人におすすめしたい。
『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』(あさ出版)
尾藤克之
コラムニスト
<アゴラ研究所からお知らせ>
―出版が仕事の幅を大きく広げる―
アゴラ出版道場、第2回は5月6日(土)に開講します(隔週土曜、全4回講義)。「今年こそ出版したい」という貴方の挑戦をお待ちしています。