【映画評】ハードコア

渡 まち子
Hardcore Henry (Blu-ray + Digital HD)

見覚えのない研究施設で目覚めたヘンリーは、事故によって身体を激しく損傷していた。研究者で妻のエステルがヘンリーに機械の腕と脚を装着し、声帯を取り戻す手術に取りかかろうとしたその時、謎の組織を率いる男エイカンとその手下に襲撃される。ヘンリーは、エイカンのすさまじいパワーによる襲撃を何とかかわしたものの、エステルをさらわれてしまう。機械の腕と足によって超人的な身体能力を手に入れたヘンリーは、愛する妻エステルをエイカンから取り戻すため、命がけの戦いに挑んでいく…。

サイボーグ化し超人的な能力を持つ主人公が愛する妻を奪還するために戦うSFアクション「ハードコア」。全編を一人称視点(ファースト・パーソン・シューター、以下FPS)で描く、疾走感あふれる映像は、まさにゲーム感覚で、主人公ヘンリーは“あなた自身”となる。ヘンリーが機械の身体を手に入れたという設定なので、走る、跳ぶ、戦う、撃つといった動作は、どれもが人間離れしている。おかげでヘンリーが通った後は、死体と瓦礫の山が出来上がるというワケだ。ヘンリーが一切言葉を発しないという設定がクレバーで、そのことが、主人公の身体と観客の意識が自然とシンクロすることを可能にしている。一人称というとホラー映画でよく使われるPOV(ポイント・オブ・ビュー)の作品で見慣れているものの、本作は怒涛のアクション・ムービーなので、見る前はブレブレのカメラで車酔いならぬ映像酔い状態になるのでは…と心配した。

だが、全編をアクションカメラであるゴープロ(GoPro)カメラを使って撮影された映像は、ブレは最小限で、斬新な映像が楽しめた。ヘンリーの案内人で変幻自在の姿で現れる天才科学者ジミーの真意、謎の超人エイカンの目的、終盤に明かされる衝撃的な事実など、一応、ストーリーはあるものの、ゲーマー視点の映像があまりにもブッ飛んでいるので、映像以外はほとんと記憶に残らない。「ロボコップ」と「アルティメット」と「アドレナリン」を足して、まるごとゲーム化したようなFPS映画である本作、映画館の大スクリーンで、体感してみてほしい。
【65点】
(原題「HARDCORE HENRY」)
(ロシア、アメリカ/イリヤ・ナイシュラー監督/シャールト・コプリー、 ダニーラ・コズロフスキー、ヘイリー・ベネット、他)
(疑似体験度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月4日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像はサウンドトラックから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。