ども宇佐美です。
例によって豊洲市場問題についての論点整理の記事です。今回のテーマは「築地市場再整備の可能性」についてです。さて第7回市場問題PTにおいて唐突に小島PT座長から築地市場の再整備案が提出され、また「市場のあり方戦略本部」において今後豊洲移転と築地市場再整備について比較検討されることになったようです。
小島PT座長の築地市場の再整備案はまだ詳細も出ていませんし、その建築的な問題点については正直私は専門外なのでわかりません。(いろいろあるようなのでそのうち誰かが指摘してくれると思いますが。。。)他方で私は元官僚ですので、”仮に築地市場再整備を進めることになった場合”の法的・政治的な問題については一応人よりは理解力に優れているつもりですので、今回は簡単にまとめたいと思います。
画像の資料は農水省の2016年3月25日の食料・農業・農村政策審議会食料産業部会において、農水省から配られた資料です。さてここで「なぜ豊洲市場問題に農水省が出てくるか?」という話なのですが、そもそも論に戻ると築地市場も開設が予定されている豊洲新市場も法的には「中央卸売市場」に位置付けられるものです。中央卸売市場は、卸売市場法に基づき地方公共団体が農林水産大臣の認可を受けて開設するものとされています。つまり中央卸売市場政策の最終的な監督責任は東京都ではなく農水省にあるということです。そんなわけで農水省が出てくるわけですが、具体的に中央卸売市場を認可するにあたっての要件としては、上の資料にもある通り卸売市場法第10条に各号列記されています。
(認可の基準)
第十条
農林水産大臣は、第八条の認可の申請が次の各号に掲げる基準に適合する場合でなけ れば、同条の認可をしてはならない。
一 当該申請に係る中央卸売市場の開設が中央卸売市場整備計画に適合するものであること。
二 当該申請に係る中央卸売市場がその開設区域における生鮮食料品等の卸売の中核的拠点と して適切な場所に開設され、かつ、相当の規模の施設を有するものであること。
三 業務規程の内容が法令に違反せず、かつ、業務規程に規定する前条第二項第三号から第八 号までに掲げる事項が中央卸売市場における業務の適正かつ健全な運営を確保する見地から みて適切に定められていること。
四 事業計画が適切で、かつ、その遂行が確実と認められること
このうち特に重要なのは中央卸売市場整備計画との整合性で、同計画は食料・農業・農村政策審議会の意見を聞いて策定するものとされています。そんなわけで冒頭の資料につながるわけですが、では現在の中央卸売市場整備計画がどのようになっているか確認してみましょう。
中央卸売市場整備計画は非常に短く内容の乏しいものなのですが、現在の「第10次中央卸売市場整備計画」では計画期間は平成28年度〜平成32年度とし、各市場をいくつかの分類に分けて位置付けています。その中で
・豊洲新市場は「取扱品目の適正化を図ることが必要と認められる中央卸売市場」及び「必要に応じ施設の改善を図ることができる中央卸売市場」として、
・築地市場は「必要に応じ施設の改善を図ることができる中央卸売市場」として
位置付けられています。
ここで重要なことは、農水省は明らかに豊洲新市場の開設、築地市場からの移転、を前提として中央卸売市場整備計画を作っているということです。平成28年10月14日の審議会での議事録を見ると担当課長が以下のように述べています。
得田食品流通課長
〜東京都は、舛添前知事が豊洲市場の開場日を平成28年11月7日と平成27年7月11日に公表しておられましたが、小池都知事が平成28年3月31日に開場の延期を発表されているという状況でございます。
認可申請につきましても、いまだ農林水産省に提出されているわけではないという状況でございます。
そうした状況についてご報告を申し上げる次第でございます。この下側のポンチ絵といいますか、フロー図でございますが、現在の状況は3月の時と同様、この開設者である東京都の準備の状況でございます。
今後、東京都から認可申請が出てきた場合に、農林水産省として認可の判断をするという段階に入るわけでございまして、現時点におきましては、市場開設者たる東京都における準備段階の状況でございますので、東京都において検討を進められているというところでございます。
現在、この東京都におかれましては、豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議、市場問題プロジェクトチームを設置しており、そこでの調査、報告も踏まえ、今後の対応を検討するというように聞いており、農林水産省といたしましては、認可申請までに、市場開設者である東京都が土壌汚染対策を含めてしっかりとした対応をとるべきこと、こうしたことをこれまでどおりの基本的な考え方として持っておりまして、これら東京都の専門家や、東京都の検討の推移を見守っているというところでございます。
今後、申請が出た場合には、法に基づき適正に判断をするという方針でございます。
以上でございます。
つまり農水省としては「東京都から豊洲市場の開設の認可申請が出てくるもの」という前提で考えているわけで、現状を静観しているわけです。これが「築地市場を再整備する」となった場合、「豊洲市場の開設」がなされないわけですから、中央卸売市場整備計画と整合性が取れなくなってくるため大ごとになってきます。どのようなことかと言いますと、仮に東京都が築地市場を再整備する方針を固めたとしても、現行の中央卸売市場整備計画と整合性が取れない東京都の方針を農水省としてはすぐに「よしわかった」と認めるわけにはいきません。ここで農水省には二つの選択肢があります。
○一つは「中央卸売市場整備計画を改定する」という選択です。この場合農水省としては食料・農業・農村審議会の意見を聞く必要性が出てきます。
○もう一つは「つべこべ言わず豊洲市場を開設しろ」と東京都に対して勧告するという選択です。卸売市場法第51条では「必要な改善措置をとるべき旨の勧告又は命令」に関する規定が設けられており、農水省として東京都に意見をすることができます。この場合でも食料・農業・農村審議会の意見を聞く必要性が出てきます。
いずれにしろ議論の場は農水省及びその傘下の食料・農業・農村審議会へと移るわけです。つまりは
ということです。他方で国政における与党は自民党であるわけですし、また農水省としてもこれまで豊洲市場移転に関しては百億円以上の国費を投入して支援してきたわけです。ましてや豊洲市場の「科学的な安全」は数値上確保されており、問題は「安心」という目に見えないあやふやなものに過ぎません。そんなものに基づいて国策である中央卸売市場整備計画が変更されるとは思えません。そんなわけで築地市場再整備に向けての道は政治的にはかなり厳しい、、、、というか厳しいを超えて無謀な道であると言えるでしょう。
小池知事はこれまでの発言をたどるに制度論に弱いと思われますが、他方の小島PT座長は仮にも元官僚であるわけですから、このようなことは百も承知のはずです。(少なくともわかっていなければならない立場ではある)それにもかかわらずあのような形で突如築地市場再整備案を提示したのは、彼もよほど追い詰められていたということでしょう。もはや小池知事と小島PT座長の信頼関係はボロボロとなっていると推測されます。
小島PT座長からこの問題を引き継いだと目される上山信一氏はさすがにこの種の手続きは熟知しているはずですから、築地市場再整備の無謀さは理解していると考えられ、このことからも小池知事が豊洲移転に舵を切ったことは間違い無いでしょう。その辺はセンスのいい小池知事のことですから、築地市場再整備は政治的には”絵に描いた餅”ということを理解して、小島PT座長を切り捨てたのでしょう。世は無情ですね。
いずれにしろ豊洲市場移転は確定的になったわけですから、今後の議論は「どのように豊洲市場に移転するか」という点に移っていくことが予測されます。都議会各党ともこの点に知恵を絞って議論を重ねて欲しいところです。
ではでは今回はこの辺で。
編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2017年4月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。