アラムコIPO:東証はどんな手をうっているのだろうか?

東京証券取引所(写真AC:編集部)

先月サルマン国王が来日される直前、ファリハ・エネルギー大臣は米ヒューストンで開催されていたCERA Weekに出席していた。Cera Weekとは、ダニエル・ヤーギンを抱えるCambridge Energy Research Associatesが始めた国際エネルギーコンフェランスで、毎年ロンドンのIP Weekの直後に開催されている。CERAは合併し、今はIHSとなっているが、コンフェランスのタイトルはそのままCERAを使っているものだ。

国王がバリ島で休養されておられるころ、ヒューストンでCERA Weekが開催されていたのだが、ファリハ氏はその後、東京に飛んで来るのだろうか、と筆者は懸念していた。

結局、ファリハ氏はムハンマド副皇太子の米国訪問に同行することとなり、東京には来られなかった。

この事実は、東証でのアラムコIPOに黄色信号が灯ったということではないかと、筆者の懸念はさらに大きくなった。

いまFTが、ロンドン証券取引所のトップがメイ首相に同行してサウジを訪問する、ファリア石油相との会談にも同席する見込みだ、と報じている。”LSE chief accompanies May to Saudi in bid to woo Aramco” (around 20:40 on April 4, 2017 Tokyo time)という記事だ。

LSE(London Stock Exchnage)のトップは、サウジの国内証券市場Tudawulが行う財務コンフェランス(financial roundtable)にも出席するそうだ。LSEも必死だ。

FTが最後に書いているように、アジア市場がサウジにとって重要だ、というのが唯一の突破口だろうが、香港やシンガポールというライバルがいる。東証もさらにロビイングを強化しないと、気が付いたら置いて行かれた、ということになってしまうのではないだろうか。

さて、FT記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・LSEのトップ(Chief Executive)は、サウジアラムコのIPO海外上場を勝ち取るために、メイ首相に同行してサウジを訪問する。

・関係者によると、LSEのトップMr.Xavier Roletは、英国にとって中東での最大の同盟国の一つであるサウジと安全保障および貿易関係の強化を目的として訪問するメイ首相に同行する数少ない民間代表の一人だ。

・火曜日に行われるサウジ証券取引所の財務コンフェランスに参加予定のMr.Roletは、メイ首相と石油相でありサウジアラムコの会長でもあるファリハ氏との会談にも同席するものと見られている。

・ファリハ氏は、IPOに関し、政府とアラムコの橋渡し役も果たしている。

・LSEのロビイングにこのようなハイレベルの政府支援が行われるということは、アラムコのIPOが如何に重要かということの表れでもある。

・Brexitにより不確実性が増している英国にとって、IPOを勝ち取ることは非常に重要な勝利となる。

・海外の各証券取引所は、ニューヨーク、ロンドンを先頭に、サウジアラムコの海外におけるIPOを勝ち取ろうと激しく競争している。

・サウジ高官は、同社の市場価値は2兆ドルになるとしているが、もしかすると半分くらいにしかならないかも知れない。だが、それでも史上最大のIPOになる。

・名声と投資家層の厚みからニューヨークが有利と見られているが、関係者の一人は、ロンドンの上場条件の方がマッチしていると指摘する。

・サウジアラムコの成長戦略にとってアジアは極めて重要な市場と考えられており、サウジ高官が示唆しているように、海外での上場が2箇所以上になる場合、アジアの可能性も否定することはできない。

検索をしてみたら、Tadawulによる当該コンフェランスの情報は見つからないが、5月に開催予定の別の財務コンフェランスの情報があった。スピーカーを見ると、サウジを中心としたアラブ各国からの関係者に加え、欧米の財務専門家が名前を連ねている。残念ながら日本人の名前はなかった。

国際的に勝負できる人材層が、財務部門でも薄いのかなぁ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年4月4日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。