「中朝友好記念切手」の古き良き時代

昔の取材資料を整理していた時、北朝鮮の記念切手が出てきた。ウィーンの国際会議場で開催された国際切手展示会で北朝鮮が出店し、そこで当方が買った切手だ。

▲中朝友好記念切手

切手マニアは世界至る所にいる。展示会に出せば結構売れる。当方は過去2回、北の切手展示会でカラフルな切手を買ったが、その印刷技術は制御不能に陥る北のミサイルとは違い、高い。競争力のある商品だ。欧州の切手マニアにとって北の記念切手はやはり珍しい。買い手は結構いる。欧州の切手業者が大量に注文しているのを見たことがある。

当方が買った切手は中朝友好を記念したものだ。故金正日総書記が中国の江沢民国家主席(任期1993~2003年)と胡錦濤国家主席(任期2003~13年)と並んで撮影した記念写真の切手である。
金正日総書記時代の中朝両国関係はいろいろあったが、基本的には友好関係を維持してきた。飛行機嫌いの金正日総書記は平壌から特別列車で北京を訪問した。中国指導部の要請を受け入れ、中国の経済特別区を訪ね、活発な経済活動をする中国企業を視察する旅にも出た。

中国と北朝鮮両国は「反帝国主義の戦いの中で手を携え、血で固めた偉大なる友誼を形成してきた関係」と謳われてきたが、北に金正恩氏が登場して以来、その風向きは大きく変わったきた。

北で3代目の金正恩労働党委員長時代に入って既に5年目を迎えたが、金正恩委員長はまだ北京を公式訪問していない。北朝鮮の最高指導者が就任後、1度も中国を公式訪問していないということはなかったことだ。
(ただし、朝日新聞は2009年6月16日と18日の2回、1面で北最高指導者・金正日労働党総書記の後継者に決定した3男・正恩氏が同月10日頃、中国を極秘訪問し、胡錦濤主席と会談したと報じた。しかし、その直後、北京外務省と北側から「作り話」と一蹴され、会見内容は完全否定された)。

ところで、正恩氏が中国を敬遠しているのにはそれなりの理由がある。北京が正恩氏ではなく、金総書記の長男で改革派と見られた金正男氏を擁立したい意向があり、正恩氏の叔父、張成沢氏(元国防委員会副委員長)が舞台裏で密かに北京と連携していたことが発覚したからだ。正恩氏は叔父を即処刑し、北京が密かに期待していた正男氏は今年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港内で北の工作員らに暗殺されたばかりだ。

その一方、正恩氏は北京が嫌がる核実験やミサイルを発射し中国指導者を怒らせてきた。その結果、中朝両国関係は険悪化し、首脳会談はこれまで実現されずにきたわけだ。北京側は国際社会の対北制裁に同調し、北側からの石炭輸入を年内中断するなどの経済制裁を課したばかりだ。

金正恩委員長と中国の習近平国家主席の首脳会談がいつ実現されるか目下不明だが、習主席の訪米後、その返答は出るかもしれない。米中首脳会談で北問題が話し合われたが、そこで制裁強硬を要求するトランプ大統領に習主席がどのように返答したかがポイントだ。米国の要請を受け入れて北に更に圧力を行使するか、それとも北との歴史的関係を重視し、米国側の要求を拒絶するかだ。後者の場合、近い将来、金正恩氏の北京公式訪問の道が開かれるかもしれない。そうなれば、習主席と正恩委員長の会見記念切手が発行されるだろう。少なくとも世界の切手マニアは喜ぶことになる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。