新年度に入って10日が経った。きのう赤坂のTBS近くにある書店(文教堂書店)を通りがかったので、拙著「蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?」がまだ置いてあるのか気になって中を覗いた。版元であるワニブックス新書のコーナーは、正面奥手の一角に大手の新書の狭間で細々ながらでも必ず置いてあるのだが、拙著はなんとか1冊、置いてあって胸をなでおろした次第だ(近くの方、ぜひよろしくお願いします)。
新聞社時代、地方支局から初めての本社勤務になった2005年秋から3年ほど、赤坂に住んでいたのだが、文教堂は赤坂エリアで数少ない書店とあって重宝していた。TBS最寄りとあって、レジではしばしばADらしき若いスタッフが企画用のためか何冊か書籍や雑誌を買って領収書を切るのを目撃したものだった。その後、Bizタワーも建って博報堂もテナントに入っているが、アイドルたちのセクシー写真集の棚が店内中央部の一角に占めているというのも、また、場所柄を感じさせる。
ちなみに、赤坂時代は夜な夜な六本木の眠らない街を闊歩するのも、都心ライフの楽しみの一つだったのだが、青山ブックセンターに立ち寄ると、六本木界隈で昔鳴らしたヤクザの人たちの自伝だかノンフィクションだかが目立つところに置いてあって、これもまた「らしさ」を感じたものだった。
だらだらと身辺日記みたいなものを書いてきたが、出版をしたい人はアマゾンで本を買うだけでなく、書店を訪れることで「発見」をしてほしい。さんざん言い古されていることだが、ネット書店は最初から目当ての書籍ありきで検索するので、どうしても本を探す視野が狭くなる。しかし、書店に行くと、いわゆる「セレンディピティ」という言葉を意識する。セレンディピティとは、思いがけない“お宝”を偶然発見する能力をさすが、自分が知らなかった、しかし非常に心惹かれる書籍に出会って、つい衝動買いしたという経験は誰にもあるはずだ。
実は、アゴラの出版道場や著者セミナーに参加した受講者の方には、書店巡りを月に1度は必ずするようにお勧めしている。セレンディピティの機会に触れることで、著者としての感性を磨くことも大事であると同時に、それ以上に、一番の理由は、書店巡りこそもっとも手軽な出版マーケティングであると考えるからだ。
六本木ヒルズのTSUTAYAのように書店員のキュレーションが非常に個性的で、品揃えが特殊なところは、参考になりづらいが、大手書店の旗艦店、たとえば紀伊国屋書店の新宿本店や東京駅前の丸善は、その時々のトレンドと、ロングセラーとして長く売れ続けるものとの質量のバランスがよい。
出版したい人は企画が命だ。自分と同じ職業や専門の先行プレイヤーがどんな本を書いているのか、また、それらの本が売れているのか。はたまた、自分がまったく新しい市場を開拓するのに「売っていない」切り口は何か、などなど書店は「情報の宝庫」であることに気づくのだ。もちろんアマゾンのランキングで市場の動きを知ることもできるが、実際の書棚に囲まれた環境に身を置き、観察することで売れるための肌感覚を身につけることができる。
ネット選挙草創期の体験をもとに1冊目を出そうと企画を練り、しかし、出版へとなかなかうまくいかなかった頃も、書店巡りで政治や選挙コーナーをよくみていた。「政治の本は売れない」と編集者から聞かされていたが、実際、有名政治家の自著や独占インタビューがあるものの、なにか昔からある型を踏襲しているように思えて実感するようになる。そもそも政治家への期待が低くなっている時勢もあって、「あぁ、なるほど、これでは政治系を前に出したものは難しい」と感じたものだった。
そこで自分の場合は、方針転換をして、自分のように想定外の独立をしてしまった人向けの「キャリア論」を体験談を組み直せないか、試行錯誤してデビューにつなげた(「ネットで人生棒に振りかけた!」)。
ちなみに、おときた都議が、「ギャル男でもわかる政治の話」でデビューしたときは、単純に18歳選挙権開始という時勢だけでは売れないので、女子高生らの多数のフォロワーがいるギャル男を巻き込むという視点は斬新で、政治本でもやり方次第で出版できることが印象的だった。企画の是非はさておき、そういう出版側の狙いがわかるのもまた、自分で書籍巡りをして、政治系の本の動きを自分なりにマーケティングしていたから、目の付け所、気づきも多く得たものだった。
自分の場合は、いささか特殊だった面もあるが、出版を考えている人は、どのジャンルでも企画が命で、特に士業の方は、先行プレイヤーの事例を頭に置いて差別化なり、フォローなり展開していく必要があろう。本を出したいという方は、ぜひ定期的に書店に足を運んでいただければと思います。
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