【追記あり】オーバーブッキングは合理的である

池田 信夫

ユナイテッド航空の機内から乗客が引きずり出された事件で世界中が盛り上がっているが、これは誤解である。直前にキャンセルする乗客が一定の比率で出るので、定員以上の乗客の予約を受け付けるオーバーブッキングは合法的であり、世界中の航空会社がやっている。

今回は乗務員4名の席がなかったので、機内で「800ドルのクーポン+航空券+ホテル1泊」という条件で翌日の便に変更する乗客をつのったが、応じる客がいなかったので、4人(無作為に選ばれた)にこの条件を提示し、3人が応じたという。残る1人が「医師で翌日に診療がある」と主張したが斟酌せず、警察を呼んで引きずり出した。これも運送約款に書かれた合法的な対応だ。

WSJによると、アメリカで2016年にオーバーブッキングのため搭乗便を変更するよう求められた乗客数は43万人強で、「非自発的」に搭乗を拒否されたのは約4万人だという。これはアメリカ国内の航空機搭乗者(延べ)6億6000万人の1/10000以下なので、多くの人がオーバーブッキングを知らない。

通常は搭乗カウンターで足止めされるが、今回は大部分の乗客が機内に入るまで手続きが遅れたようだ。これは乗務員の席で、翌日は別便に乗務する予定だったという。したがってその便が欠航しないために乗務員は(最後に乗っても)最優先で、取引に応じない客を排除することも合法だ。今回の事件の特異性は、それを他の乗客がスマホで撮影してネットで拡散したことだろう。

UAの搭乗拒否は多いようだが、オーバーブッキングは経済学でおなじみの合理的な行動である。これを禁止すると、空席が必ず出て航空運賃が上がる。航空会社が定員までしか予約を取らないと思っている人は、航空業界の激しい競争を知らないだけだ。

追記:この「被害者」であるデヴィッド・ダオには麻薬の密売などの前科があり、医師免許を取り消された(今は回復)。連邦航空法は、機内で乗務員から降りろと言われたら従うことを乗客に義務づけているので、機内で取引するUAの方式は合理的だが、結果的にはこれが大失敗の原因になった。ダオは大声を出して暴れたので、乗客の安全のために排除はやむをえない。負傷したことは不幸な事件だったが、この原因はダオが警官に抵抗してアームレストにぶつかったことで、警官の暴力ではない。