ここに興味深い調査結果がある。CNNMoney,2013によれば、数学を苦手にしている人が住宅ローンの返済に行き詰まって物件を差し押さえられる確率は、数学が得意な人の5倍に上るそうである。しかし、数字を苦手と考えるビジネスパーソンは少なくない。
『数字的コミュニケーション入門』(幻冬舎)の著者である、深沢真太郎(以下、深沢氏)は、数字力を高める専門家として知られている。日本数学検定協会「ビジネス数学検定」国内初の1級AAA認定者であり、研修講師や大学教員として数字力を指導している。
■損失は次のように計算できる
――ここに一つの問題を提示したい。あなたは5人が参加する会議に出席予定。ところが、会議の参加者の1名が少し遅れ、それを全員で待っていたために会議のスタートも1分ほど遅れた。この1分間の遅延は金額にしていくらの損失になるか概算せよ。
「たかが1分間と思われるかもしれません。しかし、あなたもおそらく新入社員だった頃に『1分も10分も遅刻は遅刻』などと指導された経験があるはずです。1分だからOKということはないのです。もし私なら、ざっくり次のように金額換算するでしょう。」(深沢)
「まず、金額で表現する『損失』が誰の損失かを定義します。会社はこの5名に給与を時間給(平均3000円とします)で支払っているとします。当然、給与を支払っているその時間は(たとえ1分間であろうと)仕事をし、成果を出してもらわなければなりません。」(同)
――ところが、1人が1分間遅れたことで会議は1分間機能不全に陥った。会社は成果を出してもらう前提で5人に給与を支払っているにもかかわらず、この5人は成果を出す行為をしていなかったということになる。
「次のように計算してください。1分あたりの給与 3,000 (円) ÷ 60 (分) = 50 (円/分)。その5人分 50 (円/分) × 5 = 250 (円/分)。つまり、会社はこの『死んだ』1分間に250円を支払っているということです。『たった250円』と思うかもしれませんが、それはこの250円があなたのお財布から出ていないからです。」(深沢)
「もしもあなたの貴重な資産の中から、こんな形で250円がドブに捨てられるとしたら、きっとイヤな気分になるはずです。そしてこれが、経営者の気持ちなのです。」(同)
■すべての出来事は数学的に解釈可能
――深沢氏はこの例題のように、すべての出来事は数学的に解釈することが可能だとしている。もし、上司との関係性や置かれた立場などを数字的に理解したら、コミュニケーション方法が変わってくることだろう。
これからのビジネスパーソンには、数学的スキルが不可欠である。といっても、数式の勉強が必要なのではない。大事なのはコミュニケーション。物事を数字で把握し論理的に伝えられるスキルである。
尾藤克之
コラムニスト
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