山本幸三地方創生相の「学芸員の連中を一掃しないと」「学芸員はがん」発言が物議を醸している。
「新しいアイデアに、学芸員は『文化財だから』と全部反対」「観光マインドを持って観光客に説明することを理解してもらわないと困る」と発言。その後、釈明・謝罪した。
この騒動。私は昨年まで内閣府地方創生人材支援制度である町に派遣されていたこともあり、元上司にあたる面もあり、無関係ではないので考えてみたい。
本音のレベルでは、山本氏がそう言いたくなるキモチもわかる。行政改革のコンサルタントをしていた時に、地方自治体で学芸員が所管する事務事業の見直しを数多く議論した。その際、学芸員の方の中には新しい取り組みやコスト削減に協力をしてくれない方も存在した、というか多かった。
学芸員の方々はその地域の出身者でないことも多いためなのか、「コスト削減」のアイデアすら考える気もない方々が相対的に多かった印象だ(中には、非常に素晴らしい改善を提案してきた人もいたが)。確かに言い過ぎたとは思うが、大臣の言い分も幾分かは理解できる。
しかし、今回の暴言の裏には根本的な問題がある。
【問題】事実認識:博物館法で定められている以上に大臣の期待にそうのは難しい。
「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる。」と博物館法に記載がある。
海外のキュレーターは企画やプロジェクトのマネジメントに専念できるようだが、日本の学芸員は博物館の幅広い業務に関わっていて、日常の雑務に追われているのが実態と聞いた。大臣が期待する役割は求められていない。多くの学芸員が役職の役割に忠実に仕事をしているのだから、できないことを求めるのはそもそも適切ではない。
さらに言うと、身分保障についても十分とは言えない面もあるかもしれない。
【問題】「ファクト」が不明
学芸員の人の中には、地域のために様々な先進的な企画をして、地方創生に貢献できるような成果を出している人も多い。「大学における学芸員養成課程及び資格取得者の意識調査」は文部科学省で実施されているが、現状の学芸員の方の意識や行動を探る実態調査は見当たらなかった。学芸員の実態がわからない中、個人の経験則や思惑によって意見を言い合っていても意味がない。
また、「学芸員を一掃して成功した美術館」についてもどこなのかはっきりしない。ソースが明らかにならないと正しい議論につながらない。
【提言】大臣への3つの提言:地方創生と学芸員のコラボを
山本大臣への提言は3つある。
第一に、予算を配慮して、学芸員の方々へチャンスを与えること。
学芸員の方々は予算のない中、皆自分なりにガンバっている。これまで地方自治体の予算が不足しているからこそ、役割を超えて地方創生に貢献する活動ができない面もある。自治体では事業費が削られ、思い切った事業もできない。地方交付税をもらっている自治体くらいでないと、人々の関心を集める企画は難しい。そもそも美術館・博物館は行政改革の対象、公共施設統廃合の対象である。なので、失敗するわけにもいかない。なので頑張る学芸員にインセンティブを与える、参画させるプロジェクトへの地方創生の予算を振り分けてあげたらどうか。
第二に、「通訳」的な、文化財の「意味」を一般人に伝えるコーディネーター的な人の養成を進める。学芸員と一般人をつなげる役割を新たに設けることだ。
そもそも我々の歴史教育は私も以前書いたように、記憶重視で、関心を持てない。
特に、歴史は事実把握重視の(記憶することが前提なのはわかるが)ため、何があったのかは知ることはできるが、事象がどういった意味や歴史的文脈を持っていたのかわからないし、政治重視の教育内容は現在につながる生活用品や技術の変容を学べない。だからこそ、資料や展示物の「背景」や「意味」を理解してもらえるような補助者が必要だと思う。
第三に、博物館法の改正である。役割を変える議論を提起してほしい。
最後に:山本地方創生大臣へ望むことは学芸員とのコラボ
失言を撤回され、即座に謝罪されたのはよかった。しかし、普段から思っていることは周りに「どう思う?」と聞いて、議論して、考えておくべきだと思う。大臣となると周りにイエスマンばかりになってしまいがちであるが、そこは注意されたら良いかと思う。
ピンチはチャンス。大臣には地方創生のための新しいイノベーションを期待したい。