米国ファーストはローラ、都民ファーストは水沢アリー

渡辺 龍太

先日、都民ファーストの会が、「宇宙から夜の地球を見た時、世界は大きな闇と〜」という文言で始まる壮大な綱領を発表しました。

都民ファーストの会 綱領全文

案の定、世間はこの綱領に対して、「てにをはがオカシイ!」とか、「夜の地球ではなく、地球の夜の部分では?」などと、激しいツッコミを浴びせていました。確かに、そういう細かい所も変だと感じます。

しかし、私が一番気になったのは、改めてなのですが、綱領に登場した『都民ファースト』という言葉の定義でした。なぜなら、私が放送作家という職業をしているからかもしれませんが、『都民ファースト』という言葉から、どうしても、第二のローラさんとして一斉を風靡した『水沢アリー』さん的なニオイを感じてしまうからです。

さて、都民ファーストという言葉は、アメリカのトランプ大統領が選挙中に使ったスローガン『米国ファースト』を意識した言葉だと思います。ですので、まず初めに、『米国ファースト』という言葉が、なぜ世の中に登場したのかを考えてみたいと思います。トランプ氏は、不法移民(外国人)によって、アメリカ人の雇用が圧迫されていると主張していました。また、アメリカは海外での戦争に首を突っ込みすぎていて、巨額の予算や、兵士の命を外国のために使いすぎていると主張していました。

つまり、トランプ氏は、本来アメリカ政府は『米国人』のためにあるはずなのに、『外国人』のための仕事をしすぎていると主張していたのです。だからこそ、外国人ではなく、米国人優先の政治をやろうという事で、『米国ファースト』という言葉が登場したわけです。

次に、『都民ファースト』という言葉の定義を考えてみましょう。言葉の意味を、そのまま考えるのであれば、『都民ファーストとは、都民よりも優先されている誰かから、都政を取り戻す』という意味にならなければオカシイと思います。

例えば、都民の税金が地方に流れる地方交付税改革とか首都移転反対というような、東京と地方の関係のありかたに切り込む石原都政的な考え方を『都民ファースト』と定義するなら意味がわかります。しかし、都民ファーストの会は、『都民ファースト』という言葉を全く違う意味で使用しています。都民ファーストの会の綱領で、「都民ファースト」を定義している部分があるので見てみましょう。

私たちが自らの名に「都民ファースト」を冠するのは、都政の第一目的は、都民の利益を最大化すること以外にないと考えるからである。一部の人間、集団の利益のために都政があってはならない。

この綱領では、『都民ファースト=一部の人間、集団でなく、都民の利益を最大化する事』と定義しています。ですが、具体的に、どういう意味なのでしょうか?例えば、小池知事は待機児童解消に力を入れています。でも、子育てに直接関係がある都民は、現在、子育てをしている都民となるわけで、割合的には一部の人間と言えるでしょう。とはいえ、都民の高齢化を食い止めるというような、広い意味で待機児童解消は都民全体に関係があるとも言えます。しかし、広い意味で都民全体に関係のある政策が何かと言えば、待機児童解消に限らず、ありとあらゆる都の政策は都民全体に関係があるわけです。

他にも、小池知事が力を入れている豊洲問題を考えてみても、豊洲移転反対派・推進派は共に一部の都民なわけで、どちらかの集団の意向を優先すると知事が決定する事が、どうやったら「一部の人間、集団ではなく、都民の利益の最大化=都民ファースト」となるのか疑問です。はっきり言って、「一部の人間、集団ではなく、都民の利益の最大化」と定義される「都民ファースト」という言葉は、非常に八方美人で、意味が曖昧でウヤムヤです。

こうやって言葉の持つ意味を深く考えると、都民ファーストの会が定義する「都民ファースト」とは、「米国ファースト」という言葉が持つ「アナタのための政治をしますよ!」という、表面的な聞き心地の良いニュアンスのみを持ったパチモンのキャッチコピーでしかないと言えるのではないでしょうか。

では、どうして、そんな安易なキャッチコピーを都民ファーストの会の皆さんが考えたのかと言えば、推測にすぎませんが、簡単に考える事が出来て、すぐに人気が出る確率が高いと判断したからなのでしょう。しかし、そうやって、既に人気のある何かの安易なパチモンを作って簡単に人気を得るという方法は、ある種の麻薬と言ってよいほど、非常に危険な手法なのです。

私の本業であるテレビ業界では、その安易なパクリ手法を使って世に出てくる一発屋が頻繁に登場します。最近の分かりやすい例で言えば、タレントの水沢アリーさんでしょう。水沢さんは、既にタメ口のハーフキャラで人気者だったローラさんに徹底的にキャラクターを似せる事で、事務所に入って二週間で地上波デビューを飾りました。その後、トントン拍子に様々なバラエティ番組で引っ張りだこになったのは記憶に新しいと思います。

しかし、あまりにも表面的な部分しか参考にしないパチモンの人気は、絶対に長続きしません。水沢アリーさんも、今となってはテレビで「実は整形をしていてハーフでもなかった」と告白し、有吉弘行さんに「ショーンKと一緒!」とキワドイ突っ込まれ方をするなどしながら、ごく稀にテレビで見かける程度です。本家本元のローラさんの活躍と比較すると、雲泥の差と言ってよいでしょう。

というわけで、「都民ファースト」という言葉も非常に水沢アリーさん的な匂いを感じるので、もし都民ファーストの会が次の選挙で勝ったとしても、近いうちに必ず化けの皮が剥がれてしまう日が来るのではないかと思います。そして、孔子の「まず名の秩序を正す」という言葉ではありませんが、あまりに独特な定義の言葉を使う政治には、注意が必要なのではないかと思いました。

※他にもブログで、こんな記事を書いています。
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※このブログの著者プロフィール
渡辺龍太 (放送作家・即興力養成コーチ)
ブログ:http://kaiwaup.com
Twitter: https://twitter.com/wr_ryota

著書:『朝日新聞もう一つの読み方』(日新報道)
紹介ブログ:朝日新聞の押し紙問題!武田邦彦教授の解説が痛快すぎる
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