あす衆院法務委に出席。「共謀罪」法案を巡る私の問題意識

あくまで、越境的組織犯罪に対処するための国連条約を実施するための法改正

どういう用語を使うかは、重要である。
うっかりすると名称に騙されて、実体を見誤ってしまうことがある。
単純な人、善意の人はよく騙される。

私も比較的単純で、善意いっぱいの方だから、実は騙されやすい。
法律家が騙されるようでは拙いなと思うから、騙されまいぞ、騙されまいぞ、とつい身構えてしまうところがある。

現在国会で審議中の法案の正式名称は、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」だが、通称は組織犯罪処罰法改正法案である。

私は、名称で一般の方々に誤解を与えたり、間違った認識を拡げたりするのが嫌だから、現在国会で審議中の組織犯罪処罰法改正案を共謀罪関連法案と呼ぶことにしている。

この法案で新設される犯罪をテロ準備罪とかテロ等準備罪と呼ぶ新聞社と共謀罪と呼ぶ新聞社があることは、皆さんご承知のとおりだが、新設される罪の法文上の正式名称は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備を伴う重大犯罪遂行の計画の罪」である。

政府与党は新設に係る罪を「テロ等準備罪」と呼び、産経や読売がこれをそのまま受け容れているのに対し、朝日や毎日、東京等は、新設の罪は従前の共謀罪と基本的に変わるところがないとして相変わらず「共謀罪」と呼んでいる。

昨日のブログで、「維新は、政府提案の共謀罪関連法案について修正すべし、との立場を取っておられるようだ。」と書いたことが致命的なミスだなどと言ってこられた読者の方がおられたが、私を参考人として招致することを提案された方は私の意見は重々承知の上で推薦されたはずだから、致命的なミスにはならないと思うのだが、さて如何だろうか。

報道では、維新は自民党、公明党と24日から法案修正の協議に入る、ということのようである。
私が衆議院の法務委員会に出席し、政府案について修正の必要性を訴えたとしても何の問題もないはずである。

さて、この辺りで、私の問題意識を少しだけ開陳しておく。
まずは、国際的組織犯罪防止条約という名称についてである。

組織犯罪処罰法改正法案の第1条は、現行法第1条の改正である。

「第1中『かんがみ』を『鑑み、並びに国際的な組織犯罪の防止に係る国際連合条約を実施するため』に改める。」

とある。

「国際的な組織犯罪の防止に係る国際連合条約」はちょっとスマート過ぎではないかしら。
英語の条約正文に忠実な「越境的な組織犯罪に対処するための国際連合条約」の方がより具体性があり、かつ、条約の具体的な内容とも整合するんじゃないかな、というのが私の印象である。

そのうえで留意すべきなのは、今回の組織犯罪処罰法の改正は、あくまで国際的組織犯罪防止条約(通称)の実施のためだということだ。

あれ、テロ対策のためではないのね。
2020年東京オリンピック開催のため、でもないのね。

今回の改正は、国際的組織犯罪防止条約締結のための国内法の整備のための法改正だということが、目的規定の改正条項を一読するだけで分かってくる。

まあ、そんなことは皆さん、先刻ご承知だ、と仰る方もおられるだろうが、テロ準備罪とかテロ等準備罪という言葉だけ聞いて法律の中身を自分では確認しようとされない方々の中には、今回の法改正はテロ対策強化の一環として行われるはずだ、と思い込まれていた方が多かったのではないかしら。

国際的組織犯罪防止条約ってどんな条約?

国際的組織犯罪防止条約を締結するとどんな風に世の中は変わるのだろうか、ということを考え始めている。

条約の仮訳を読んでみた。
犯罪がどんどん国境を越え国際化していること、組織犯罪集団がどんどん国境を越え国際化していることを痛感させるような条項が次々に現れている。

なるほど、まさに越境的な組織犯罪集団や越境的な組織犯罪に対処、いや単なる対処ではなくこれらに対抗するための具体的な国際協力の中身を書いた実効性のある条約だということが分かる。

国際的組織犯罪防止条約という言葉から湧いてくるぼやっとしたイメージではなく、まさに組織犯罪集団を世界中の国や地域から退治していくための実に能動的な条約だということが、条約のあちらこちらから浮かび上がってくる。

組織犯罪集団との戦いが世界各国で如何に凄まじいものだったか、ということが伝わってくるはずである。
テロとの戦い、という言葉があったが、この条約を締結すると、日本はいよいよ組織犯罪集団との本格的な戦いの一角を占めることになる。

実に重い条約である。

ちなみに、この条約は、英語の正文では、
UNITED NATIONS CONVENTION AGAINST TRANSNATINONAL ORGANIZED CRIME
と表記されている。

(参考)
国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(訳文)から筆者が適宜抜粋した主要項目一覧

目的 国際的な組織犯罪を防止し及びこれと戦うための協力を促進する。

締約国に求められること

① 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化
② 犯罪収益の洗浄の犯罪化
③ 資金洗浄と戦うための措置の実施
④ 腐敗行為の犯罪化
⑤ 腐敗行為に対する措置の実施
⑥ 組織的犯罪集団が関与する重大な犯罪へ参加した法人の刑事上、民事上、行政上の責任の確立と刑罰又は刑罰以外の制裁措置の実施
⑦ 訴追、裁判及び制裁措置の実施
⑧ 犯罪収益等及び犯罪供用財産等の没収及び押収等の措置の実施
⑨ 没収のための国際協力措置の実施
⑩ 没収した犯罪収益、財産等の処分、返還等の措置の実施
⑪ 犯罪人の引渡し
⑫ 刑を言い渡された者の移送
⑬ 法律上の相互援助
⑭ 共同捜査
⑮ 組織犯罪と効果的に戦うための監視付き移転の適当な利用及び適当と認める場合には電子的その他の形態の監視、潜入捜査等の特別な捜査方法の実施
⑯ 司法妨害の犯罪化
⑰ 証人の保護の措置実施
⑱ 被害者に対する援助及び保護の提供
⑲ 法執行当局との協力を促進するための措置の実施
⑳ 所いう役の対象となる犯罪と戦うための法執行の活動の実効性を高めるための協力の実施
㉑ 組織犯罪の性質に関する情報の収集、交換及び分析の実施
㉒ 訓練及び技術援助の実施

対象犯罪の更なる限定は可能だろうか

「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画罪」の対象犯罪が277と大幅に限定されたのは水面下で公明党が相当頑張ったからだろうと思っているが、だからと言ってそれで十分か、というと必ずしもそうでもないようだ。

10年前の自民党法務部会・条約刑法検討に関する委員会では、対象犯罪を、現実にテロ組織等の組織的な犯罪集団が実行するおそれがあり、ひとたび実行されると重大な結果が生じてしまうため、その防止のために、実行前の「謀議」(現在の政府提案では「計画」)の段階で処罰することが真に必要であると考えられる犯罪に限定することとし、そのような犯罪の類型として、「テロ犯罪」、「薬物犯罪」、「銃器犯罪」、「密入国・人身取引等犯罪」、「その他、資金源犯罪など、暴力団等の犯罪組織によって職業的又は反復的に実行されるおそれの高い犯罪」の5つの類型を挙げた上、各類型に該当すると考えられる犯罪を具体的に列挙してみた。

手元にある資料によると、Aのケースで刑法の罰条+特別法の数が81(対象犯罪の該当罰条数の合計で128。以下、同じ。)、Bのケースで93(151)、一番多いCのケースで104(162)となっている。

政府提案の277はまだ多過ぎるのではなかろうか、もっと絞り込まなければいけないはずだというのが私の感想だが、残念ながら私には政府が提案してきた対象犯罪の一つ一つについて個別具体的に検証する力が不足している。
民進党や共産党の議員の皆さんが一つ一つの罰条についてきちんと検証作業をやってくれるとありがたいのだが、どうも野党の皆さんの指摘は網羅的でもなく、精緻でもない。

これは困ったな、公明党の皆さんがもう少し頑張ってくれて、問題になりそうなものを全部取り除いてくれるといいのだがな、と思っているところだ。

私が気になっているのは、一般の会社でも陥り易いような脱税や意匠権や実用新案権、商標権、特許権等の侵害、文書偽造、贈収賄、詐欺更生、詐欺破産、特定の債権者に対する担保の供与、会社財産を危うくする行為、虚偽有価証券届出書等の提出、インサイダー取引、営業秘密侵害や不正競争、不正の手段による補助金等の受交付、強制労働などの罪について計画(従前の用語でいえば、共謀)段階で処罰の対象とすることが一般的に必要になるのだろうか、ということである。

組織的犯罪集団は世界の各地でそういうことをやりながら組織の肥大化を図っているのだから、組織犯罪集団を防遏していくためには日本でも犯罪化しておかなければならない、という説明になるのだろうが、私にはどうも呑み難い規定である。

企業の倒産整理事件を手掛けていると、倒産企業の経営陣が倒産直前に苦し紛れにどんなことに手を出すか、ということがある程度分かってくる。

会社の役員だけでなく、経理担当者や時には税理士や怪しげな経理コンサルタントなどのグルになっていることがあるから、融資詐欺や補助金詐欺、脱税、横領なども対象犯罪になってくると捜査当局の認定次第で普通の企業や団体が捜査の対象になってしまうことがありそうだな、という印象である。

現時点では、相当縛りをかけておいた方がよさそうだぐらいのことは言っておいても、特に間違いだとか、致命的なミスだなどということにはならないだろう。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2017年4月23日の「テロ等準備罪・共謀罪」関連記事をまとめて転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。