届出だけで婚姻が成立する日本は、実は少数派

日本における婚姻(結婚)の要件は、「当事者の婚姻意思」と「届出」の2つです。
「当事者の婚姻意思」を欠くケースの典型例は偽装結婚で、よく不法滞在者に名義だけを貸したということでニュースにもなっていますよね。

そういう特殊なケースを除けば、役所への婚姻届の提出と受理だけが婚姻成立の要件と考えても差し支えありません。

実は、届出だけで婚姻を成立させるわが国の制度は、世界的に見て極めて珍しいのです。
「ローマの休日」をご覧になった方は、主人公の王女と新聞記者が役所の窓口で結婚すると偽って周囲の人々から盛大な祝福を受けるシーンを憶えておられるでしょうか?あれは、二人が役所に出向いて(結婚の誓いをするかどうかは知りませんが)婚姻が成立するのです。英国でしたか、役所の中に結婚儀式をする部屋を設置している国もあります。

米国でも、結婚を承認する権限を持った人がいて「証明書」を発行してくれるケースが多いようです。この場合も、当然、結婚する二人がいなければ婚姻は成立しません。

ところが、日本では、どちらか一方が婚姻届を提出するだけで婚姻は成立してしまいます。
昨今は、両名の身分証明書(免許証やパスポート)の提示を求める役所が増えたようですが、以前は必要事項が漏れなく記載されて捺印がなされていれば婚姻届が受理されました。

三文判でも構わないので、知らない間に片思いの相手と結婚してしまう悪い輩もたくさんいたようです。相手にとっては大変な迷惑です。知らない間に夫婦にされてしまい、それを解消するためには裁判所に出向かなければならないのですから。

どうして、日本では当事者双方の出頭が不要なのでしょうか?
明確な理由はわかりませんが、戸籍制度ができるまでは儀式だけ(武士の場合は君主の許可も必要)で結婚が成立したことから、届出は「ただの形式」に過ぎないと軽視する傾向があったのかもしれません。

ところが、現在の制度では「届出」の有無が決定的な違いをもたらします。
昨日知り合った大金持ちとたまたま意気投合し、冗談半分で婚姻届を出した直後にその大金持ちが交通事故で死亡すれば、相手は正式な相続人となり莫大な財産を相続する権利が与えらます。
逆に、「何十年と事実上の夫婦生活をしていても「届出」がなければ正式な相続人とは認められません。こういう場合、裁判所もあれこれ工夫をして保護する傾向にありますが、相続は絶対に認められていません。

先ごろ私が書いたKindle本「婚姻無効」では、違った角度から「届出婚姻主義」の不都合を扱っています。パソコンでもスマホでも読めて99円ですので、是非ご一読いただければ幸いです(宣伝です)

非婚化・晩婚化が取りざたされる中、役所の中に豪華な婚姻室でも作って、担当者たちが結婚する二人を祝福して記念品でも差し上げてはいかがでしょう?

費用も手間も大してかからない割には、結婚する二人にとっては忘れがたい思い出と記念になります。憧れる人が増えれば、多少なりとも結婚願望を刺激する効果があると思うのですが…。

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年4月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。