国債が売られると金利が上がる直感的な解説(後編)

香川 健介

(本記事は前編の続きです。前編をまだ読んでいないという方は、先にこちらをお読みください。)

あなたは10000円でA国国債を買っているので、(えっ、自分は10000円で買ったのに、5000円かよ。差額の5000円分損しちゃうじゃねえか)と、内心悲しい気持ちになります。

なので、あなたは「もうちょい高く買ってくれませんかね? たとえば7000円とか…」と言ってみます。

すると相手のBさんは「いや~気持ちはわかるけど、A国はつぶれそうなんだよね。みんなやばいやばいと言って売りまくってる。自分もA国はやばいと思う。けど、自分はA国は復活すると信じる。10000円なら高くて買わないけど、5000円くらいなら払ってもいいと思ってるよ。他の債券投資家たちも、A国の国債はだいたい5000円くらいの価値があるって言ってる人が多いし。」と言います。

A国国債の競りのオークション価格を見ると、たしかにちょうど売りたい人と買いたい人が5000円のところに集中しています。
つまり、A国の国債は5000円の価値があると思ってる人が多いということです。

Bさんは「A国国債はやばいけれど、まぁ5000円程度の価値はあるだろうし、今後値上がりする」と判断しているのです。

一方、あなたは、「A国はいつ財政破綻してもおかしくないし、A国の国債は紙クズになるかもしれない」と思っているので、なるべく早く売りたい。

つまり、あなたと相手のBさんとは、A国国債の今後について、予想が違うのです。

A国国債は紙クズになると予想しているあなたは、「紙クズになるよりはこのBさんに5000円で売ったほうがまだマシだ」と考え、Bさんに5000円で売りました。

このあと、もし10年後にA国が復活し、経済が絶好調になった場合、5000円で買ったBさんは10年後、100円の利息×10年分の1000円の利息を得ることになります。
A国は破産しなかったので、A国政府は5000円で買ったBさんに対し、毎年100円を払い続けることになるからです
また、A国が破産しなかったので、A国国債は、10年後に10000円でA国政府が買い取ってくれます。
ですので、A国国債を5000円で買ったBさんのところには、この1000円の利息と10000円の買い取り分の、あわせて11000円のお金が入ってきます。

よって、Bさんは5000円を出し、10年後に11000円ゲットできたのです。11000円÷5000円=2.2倍に増えたことになります。
Bさんは、A国国債が暴落し5000円になったときに買ったので、その後A国が復活したときに、投資したお金の2.2倍が返ってきたのです。

もし10000円のときに買ったものをそのまま持ってたら、10年間でも100円×10年=1000円分、つまり1000円÷10000円で10%しか儲からなかったはずです。
10%と120%では、かなり違います。

Bさんは、A国が破産して借金踏み倒しするかしないか怪しいとき、リスクをとってA国国債を買ったのです。
Bさんは「国が借金踏み倒しをしないという前提のもと、この国債を最後まで持つと、最終的にいくら儲かるか? 」と考え、5000円のとき、勇気を出して5000円で買いました。
その勇気の見返りに、Bさんは投資金額が10年で2.2倍になったのです。

なお、A国が危なくて、A国国債が5000円のとき、A国がもっと国債を発行したいとしたら、どうなるでしょう。
1年100円を10年支払い、かつ10年度には10000円を支払わないといけない国債の価格は、5000円です。

つまり、いま5000円を得るためには、1年100円×10年間+10年後の10000円=11000円を10年後に支払う必要があるという条件でしか、A国は国債を出せないわけです。

すなわち、A国から見ると、いま5000円を得るために10年後11000円を支払うという借金の契約をしていることになります。
金利は、10年間で11000÷5000円=2.2倍=220%、つまり10年間で120%の金利になります。単純に10年で割ると、1年あたりの金利は12%です。

昔、A国が健康だったときは、10000円で年間100円という条件で国債を出せていました。
「A国政府は100円を毎年払いますし、10年後に10000円をお返ししますよ」と約束しており、それにお金を払う人たちがいたからです。
つまり、100円÷10000円=1%が年間の金利だったのです。

国債の値段が10000円から5000円まで売られると、年間1%だった金利が、年間12%の金利になってしまったのです。

国債が売られると、金利が上がることは、直感的にはこのように理解すると分かりやすいでしょう。

ちなみに、A国が危ないとき、あなたから5000円で買ったBさんは、A国がつぶれないと思ってA国国債を買っています。
ですので、もしA国が本当に債務不履行、つまり借金踏み倒し宣言をしてつぶれてしまった場合、Bさんが5000円出してあなたから買ったA国国債は紙クズになります。
そのとき、Bさんは大損をくらいます。

そのA国がつぶれて大損するリスクと引き換えに、もしA国がつぶれなかったら大儲けできることを狙って、BさんはあなたからA国国債を買ったのです。

A国が破綻するかしないかきわどいとき、Bさんのように、5000円を出して、この10年間で120%という高金利のA国国債を買いますか?
金利が高い国債を買うということは、その見返りに国がつぶれるリスクを背負っているということが、理解していただけたと思います。

(なお、ときどき証券会社が「高金利の外国の国債を買いましょう」という宣伝文句で営業をしていますが、世の中そんな美味しい話はありません。
その国の国債が危ないから、金利が高くなっているのです。

金融の世界で美味しそうな話を耳にしたら、「罠があるのでは? 」と、必ず疑ってかかってくださいね。)

 

以上のようにざっくり考えると、国債が売られて国債価格が下がると金利が上がる理由が、理解しやすくなると思います。

貴重なお時間を割いて本記事を読んでいただき、どうもありがとうございました。
次の記事は「ソ連崩壊後のロシア経済は日本の近未来の姿?(前編)」になります。よかったらご覧ください。

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