稚拙なビジネススキルよりも人間観察のほうが役に立つ

尾藤 克之

写真は高山氏。経営者JPより。

先日、エントリーした「成果主義で失敗した会社が帰結すべきたった一つの理論」が好評だったので続編をお送りしたい。EQを伸ばす方法の一つとして「人間観察」がある。今回は、「人間観察」にフォーカスした内容をまとめた。

インタビューイーの高山直(株式会社EQ/取締役会長)氏とは、10余年ぶりの再会となった。EQJAPANという組織で、高山氏が代表取締役、私はソリューション部門と営業部門を統括する責任者としてEQ普及につとめてきた。

今回、アゴラに投稿した記事が、高山氏の目にとまったことが連絡をとる契機となった。アゴラのメディアとしての影響力を感じずにはいられない。

■人間観察が役に立つ理由

――表情からその人の気持ちや感情の状態を読み取れるようになるためには、ある程度の訓練が必要になる。その練習に効果的なのが週刊誌や雑誌などに載っている人物の表情から、感情を推測する訓練である。

「アメリカで行われているEQの訓練の一つに『エモーショナルーポーカー』というゲームがあります。これはトランプの代わりにいろいろな人の顔写真が印刷されたカードを使い、その表情から同じ感情と思われるカードを選別し、ペアとして扱うというポーカーゲームの一種です。」(高山氏)

「これと同じ訓練が雑誌でも可能です。週刊誌などに載っている人の表情を見て、その人がどんな感情なのかを推測してみましよう。たとえば、写真週刊誌に密会現場を撮られた芸能人の表情などからはさまざまな感情が読み取れます。」(同)

――これは、多くのケースを見ることが大切だ。たくさんの表情を見るうちに自然と人の感情がわかるようになる。

「写真などの表情を見て、どんな感情を表しているかが判断できるようになったら、今度は、実際に人を見て、その人の感情の状態を読み取る『人間ウォッチング』をしてみましょう。街を歩いていて、すれ違う人の表情を観察することもできますし、駅や公園などのベンチに座り、前を通る人を観察するという手もあります。」(高山氏)

「最もビジネスパーソン向けなのは、通勤途中の時間を利用することでしょう。朝夕のラッシュがそれほどひどくなければ、通勤電車の中は人間ウォッチングには格好の場所です。座席に座ることができれば、ゆっくり観察することができるでしょう。」(同)

――この訓練が身につけば、職場での実践が容易になる。上司の機嫌が悪いときに声をかけるようなミスをしなくなるだろう。

「職場の同僚や上司が、どのような感情のときにどんな表情になるかを知ることは、相手にどう対応するかの実践につながります。『課長は部長のことが好きではないな』とか、『総務の鈴木さんは男性社員に人気だけど別に本命がいるな』といったことがなんとなくわかります。行動する前に人を見ることの重要性に気がつくことでしょう。」(高山氏)

■いま市場にある多くの商品はパクリ

前回、「EQブームのあと便乗した書籍や飛躍した理論が乱立した」と説明した。詳細に記載するなら、いま市場にある多くのEQ商品はパクリであることも追記しておきたい。

まず、EQJAPANという組織は、EQ理論提唱者のイェール大学のピーター・サロベイ博士(現学長)、ニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー博士との共同研究をおこなっていた唯一の研究機関である。

EQJAPANの個別診断テスト受験者は30万人を超え、導入企業も3000社に達した。私は当時の個別診断テスト受験者のデータを詳細分析し、EQ各素養の成分や相関性などを検証した。EQ理論に基づいた検証をしたということになる。

しかし、EQブームのあと出現したアセスメント関連商品(EQ検査、評価、書籍など)の多くは、EQ理論を無視した稚拙で未熟なものが多かった。その悪い影響によって、いまのビジネスパーソンにEQ理論に基づかない「勝手理論」が広まってしまった。

本物を理解したうえでの応用であればよかったが、何ら根拠に基づかないものが多かった。本物はちゃんと理解したほうがいい。私自身は、現在、EQを推進する活動はしていない。しかし、間違った解釈が広まることの影響を憂慮している1人ではある。

参考書籍
EQ「感じる力」の磨き方』(東洋経済新報社)

尾藤克之
コラムニスト

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追記
アゴラ出版道場に渡瀬裕哉さん、田中健二さん登壇決定」。