20世紀の政治・経済構造が崩壊

18世紀のフランス革命から近代史が始まった。中世の停滞した社会、文化体制は変革され、絶対王政、立憲王政、そして共和制へと移行していった。その近代史の発祥の地フランスで20世紀までの政治、経済システムがもはや機能せず、新しい体制が求められてきている。フランス大統領選(第1回投票)はそのことを端的に示した。

7日の決選投票まで1週間を切った。フランス次期大統領に最も近いといわれるエマニュエル・マクロン氏(39)はオランド大統領の経済相を務めたが、直ぐに退陣している。その理由は同氏の経済政策を読めば理解できる。

ロスチャイルド家の投資銀行家出身のマクロン氏は選挙戦で歳出は削減し、公務員の大幅な削減、国営企業の民営化、規制緩和などを主張してきた。そして、小さな政府の確立を狙っている。オランド大統領の伝統的な社会党のそれとは明らかに異なる。同氏は昨年4月、「左派でも右派でもない政治」を目指すと宣言し、政治運動「前進!(En Marche!)」を結成している。

(ルペン氏は銀行の国有化、貧困層への手厚い社会的保障、税の優遇を主張し、年金年齢を60歳に引き下げ、労働者の解雇制限、政府債務残高を対GDP比60%以内に抑えるマストリヒト条約の撤廃といった内容だ)

決選投票に進出したマクロン氏とルペン氏の経済政策を見る限り、左派対右派といった従来の分類では理解できない。そして経済政策だけではないのだ。共和党と社会党の対立といった左右の政治イデオロギーの対立構図ももはや成り立たなくなってきている。

フランス大統領選第1回投票で共和党候補者のフランソワ・フィヨン元首相(63)と社会党のアマン元厚生相は決選投票に進出できなかった。戦後から政権を交互に掌握してきた左右2政党が有権者の約4分の1しか獲得できず、敗戦した。有権者の4分の3は他の政党、政治家に投票したわけだ。既成大政党の後退現象はフランスが初めてではなく、ギリシャ、イタリア、そして当方が住むオーストリアでも既に表面化している。

オーストリア代表紙プレッセは4月26日付の社説の中で「20世紀のイデオロギー構造が崩壊する時」という見出し、「フランス大統領選は21世紀に通用する政治、経済理論が必要となってきたことを示した」と主張している。

プレッセ紙は「保守右派と社会党左派の政治イデオロギーは20世紀では貢献できたが、21世紀が直面している諸問題を解決するには無力となってきた。従来の労使関係はもはや成り立たず、季節労働者が増加する一方、失業者は増加し、生産の自動化で多くの労働者が解雇される今日、従来の経済政策、政治イデオロギーでは対応できなくなってきた」、「カール・マルクス(1818~1883年)、フリードリヒ・ハイエク(1899~1992年)、そしてジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946年)らの経済学者は多くの経済原則を発見し、国民経済の発展に貢献したが、インターネットが拡大し、人工知能(IA)が産業に投入されてきた21世紀にはもはや多くのことを期待できない」というのだ。

非常に啓蒙的な社説だが、21世紀の政治、経済構造の輪郭については具体的に何も言及していない。その課題は今後、政治家、経済学者が取り組んでいかなければならない課題というわけだろう。

7日の決選投票は、欧州連合(EUを支持するマクロン氏と反EUを主張するルペン氏の対決と受け取られ、その投票結果はEUの行方を左右すると予想されている。ただし、EU自身がその構造、機能で大きな問題を抱え、加盟国間の対立でその本来の役割を果たすことが出来ないでいる。

政治・経済システムの刷新が不可欠であることを端的に示したフランス大統領選はその先駆けを行っているわけだ。少し、気障な表現をすれば、“第2のフランス革命”が問われている、といえる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。