フランス大統領の決選投票は7日、投開票が行われた。現地からの報道によると、無党派のエマニュエル・マクロン前経済相(39)が得票65.5%を超える圧勝で当選を確実とした。対抗候補者の極右派政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン氏(48)は約34.5%に留まった。投票率は約74%で前回より下回った。なお、白紙、無効票は約8.8%だった。戦後のフランス歴史で最年少の大統領となるマクロン氏の就任式は今月15日の予定だ(いずれも暫定結果)。
ブックメーカーは投票前から「マクロン氏の当選は間違いない。オッズ(倍率)は1.07程度だ。マクロン氏の勝利に100ユーロかけても7ユーロしか利益にならない」と説明していた。ブックメーカーの倍率は様々なビックデータ、複数の世論調査、過去の実績などを基に各分野の専門家が決定するから間違いは少ない。ブックメーカーにとって、マクロン氏の勝利は織り込み済みだったわけだ。
マクロン氏は今後5年間、フランスの舵取りを担う。フランスの国民経済は隣国のドイツの経済とは違い、停滞している。マクロン氏は規制緩和、国営企業の民営化、国民経済の活性化に乗り出す考えだが、6月の議会選挙の結果次第では、大統領の権限は国防、外交政策に制限され、経済分野を含む国内課題でその政治手腕を発揮できなくなる状況もあり得る。
欧州連合(EU)との連携を表明してきた親EU派のマクロン氏の当選はブリュッセルに歓迎されている。EU離脱も視野に入れるルペン氏が当選していたら大変だった。英国のEU離脱交渉がようやくスタート台に立ったばかりだ。フランスまで離脱を問う国民投票を実施すれば、EU加盟国の結束は崩れ、EUは文字通り、存続の危機を迎えることが予想された。
ここではマクロン氏の勝利の背景について少し考える。11人が候補した第1回投票ではマクロン氏は第1位の得票率約23.75%、それを追ってルペン氏が21.53%で、両者の差は約2ポイントに過ぎなかった。それが2週間後の決選投票では30ポイント以上の大差をつけてマクロン氏が圧勝したわけだ。
その主因は
①保守共和党候補者のフランソワ・フィヨン元首相(63)と社会党のアマン元厚生相の既成2大政党の大統領候補者が敗戦直後、「決選投票ではマクロン氏を支援する」と正式に表明。各界の著名人、スポーツマンらも次々と「マクロン支持」を表明したことから、“反ルペン網”が構築された。
②多くの有権者はルペン氏を次期大統領にしないためにマクロン氏に投票した。今回の決選投票は「ペストかコレラの選択」といわれたほど、積極的に支持したい候補者を見いだせない有権者が多かった。実際、多くの有権者は棄権し、白紙と無効票を投じた。
ちなみに、オーストリア、イタリア、オランダなど欧州各地で極右派政党が躍進してきたが、政権を取ったり、大統領を出した極右派政党はまだない。フランスのルペン氏はその目標に最も近い欧州の極右派政治家だった。
例えば、オーストリア大統領選でも極右政党「自由党」の候補者ノルベルト・ホーファー氏(45)と野党「緑の党」前党首のアレキサンダー・バン・デア・ベレン氏(72)の両候補者の間で決選投票(2016年12月4日)が実施された。第1回投票で敗北した2大政党、社会民主党と国民党は「極右派政治家を大統領にしてはならない」として反ホーファー網を構築し、バン・デア・ベレン氏を支持した。そのプロセスはフランスとまったく同じだ。
フランスは今日、難民・移民問題、EU問題、経済の格差など多くの難問に直面している。マクロン氏は国家の刷新のため分裂した国民の結束に努力すべきだ。フランスの大統領職はオーストリア大統領のような名誉職ではない。大きな権限があるが、同時に責任も大きい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。