スランプの後、米シェール業者は生き返った

FTのEd Crooksが興味深い記事を書いている。”US shale group roar back to life after oil slump” (around 22:00 on May 9, 2017 Tokyo time) いうタイトルで、サブタイトルが”Biggest risk for sector is increased output causing new crude price crash” となっているので、記事詳細の紹介はほぼ不要だろう。以下に、興味深いコメント、あるいはEdの指摘を抜き出しておくが、筆者がもっとも興味を持ったのは、一番最後にあるAdam Sieminski(EIAの前のトップで、今はワシントンのシンクタンク Center for Strategic & International Studies所属)の指摘だ。

つまり、一言で「原油」というが、それぞれの「原油」にはそれぞれ異なった性状がある。製油所で使用する場合、多くの原油はさほどの差はないものが多いが、たとえば中東産の原油と比べるとシェールオイルはまったく違うものなのだ。一般的なシェールオイルは、重油などの重い留分をまったく含まない。

米国の石油開発業界が強く主張し、ついにオバマ政権の時代に「原油輸出」を解禁した背景には、米国産シェールオイルの米国内市場規模に限界があり、輸出できないと国内で買い叩かれる実情があったのだ。米国外ならある程度の市場があり、「フェアーな価格」を獲ち取れる、というのが業界の主張だった。だが、海外といえどもシェールオイルの市場規模には限界がある。過去のピーク以上の生産をした場合、「フェアーな価格」で売れる保証はまったくないのだ。

これは「盲点」だったな。
以下が記事の興味深い箇所なのでご参考まで。

・トランプ内閣はいま、米国の将来の役割について新しいキャッチフレーズを掲げている。すなわち「エネルギーで自立する」ではなく「エネルギーで支配する」だ。

・先週、ヒューストンで行われた業界イベントで内務長官のRyan Zinkeは「支配することこそアメリカが必要とするものだ」と語った。

・いかにも大げさで却下したくなるような話だが、この野望を正当化するような証拠が毎週米国エネルギー業界に現れている。最近の決算数字は、彼らが如何に強靭で、さらなる成長の可能性を秘めていることを示した。

・シェール業界の弱点は、営業収入(Operating cash flow)で必要な資本投資(capital expenditure)を賄うことができず外部金融に頼らざるを得ないことだった。だが過去3年間に40%のコスト削減に成功し、現在の価格でも営業収入で資本投資を何とか賄えるようになった。

・億万長者で大株主でもあるContinental Resoucesの社長Harold Hamm(選挙戦中、トランプのエネルギー問題のアドバイザーだった)はかつて、70ドル以下の価格は長期的に持続不可能だ、なぜならサウジも米シェール業界もそれではやって行けないからだ、とよく言っていた。だが今は、50~55ドルなら営業収入で年間20%の生産増加に必要な資本投資を賄えるし、40ドル台の低い方でも生産量を維持することができる、と言っている。

・Baker Hughesによると、シェールオイルに使われる水平掘削(horizontal)リグの稼働数は過去12ヶ月で248基から598基にほぼ倍増した。すでに、来年達成するだろうと見られていた水準になっている。

・生産性も向上しており、パーミアンにおける新規油井からの生産量は、2014年秋の217BDから662BDに3倍増となっている。

・増産の妨げとなるようなコストインフレはまだ見られない。シェール業者のEOG Resourcesは月曜日、サービス業者のコストは確かに上がっているが、1Q17は2016年対比で6%のコスト削減に成功した、と語った。

・EIAの前のボスで、今はワシントンのシンクタンク、Center for Strategic & International StudiesのAdam Sieminskiは「共有地の悲劇 Tragedy of the Commons*」の類推を交えて「一匹の羊が共有地で草を食むことは問題がない。だが集団でやると、草地はすぐに泥地になってしまう」「世界中の誰がシェールオイルを買うのか?そんなに市場があるのか」と語った。

*多数者が利用できる共有資源が乱獲されることによって、資源の枯渇を招いてしまうという経済学の法則

最後の問題はもう少し緻密なチェックが必要だな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年5月10日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。