同性愛者であることを告白したポーランド出身のハラムサ元神父(Krzysztof Charamsa)が「最初の石」(独語訳)というタイトルの本を出版した。同元神父は単なる一神父ではなく、バチカン法王庁の中核、“カトリック教理の番人”と呼ばれる教理省(前身・異端裁判所)に従事していた高官だけに、バチカン内部に渦巻く同性愛問題を体験に基づいて暴露した新著は大きな反響を呼んでいる。
ハラムサ元神父(45)は2015年10月3日、世界代表司教会議(シノドス)の開催直前、記者会見を開き、そこで「自分は同性愛者である」と告白した。家庭問題をテーマとしたシノドス開催直前の告白は元神父の計算された演出であったが、その反響は大きかった。同神父は自身の同性愛の経験やバチカン内の同性愛ネットワークについて「最初の石、同性愛神父の教会の偽善への告発」(Der erste Stein. Als homosexueller Priester gegen die Heuchelei der katholischen Kirche)の中で述べている。
元神父は同性愛を告白した直後、バチカン教理省内の聖職や「国際神学委員会」助手、法王庁立大学の教鞭のポストなどを失うと共に、神父の立場もはく奪された。ハラムサ元神父は現在、スペイン人男性パートナーとバルセロナで生活している。
ハラムサ神父がバチカン教理省に働くようになったのは、前法王べネディクト16世(在位2005年4月~13年2月)が教理省長官時代(ラッツィンガー枢機卿)から声をかけられたからだ。ハラムサ神父は神学者として優秀だった。同神父は2003年、ローマの法王庁立のグレゴリアン大学を最優秀の成績で卒業した。同神父の能力を高く評価したラッツィンガー教理省長官は「ぜひ、教理省に来てほしい」と要請したわけだ。
ちなみに、べネディクト16世は2005年、「同性愛者は聖職に従事できない」という法王公布を発布したが、ハラムサ神父は当時、同公布の作成者の一人だった。同神父は後日、「同性愛者であった自分がそのような公布を作成することに葛藤があった」と述べ、聖職者と同性愛者の2つの世界で生きてきた日々を吐露している。
バチカンや教会内にはホモ・ネットワークが存在する。それを歴代ローマ法王も認めている。以下は関連資料の一部だ。
①ローマ法王フランシスコ自身は2013年6月6日、南米・カリブ海諸国修道院団体(CLAR)関係者との会談の中で、「バチカンには聖なる者もいるが、腐敗した人間もいる。同性愛ロビイストたちだ」と述べた。バチカンは当時、南米法王の発言は私的なものと説明するだけで、否定はしなかった。
②イタリア日刊紙ラ・レブッブリカによれば、前法王ベネディクト16世は2012年12月17日、バチリークス調査委員会(3人の枢機卿から構成)が作成した報告書の中に、「バチカン内部に秘密の同性愛者ネットワークが存在し、枢機卿は脅迫されている」という内容にショックを受けたという。バチカン側は当時、この報道を否定した(「バチカンに同性愛ロビイスト存在」2013年6月14日参考)。
③オーストリアのローマ・カトリック教会サンクト・ぺルテン教区のクラウス・キュンク司教は、「神学セミナーや教会聖職者の一部に同性愛的(ホモセクシュアル)な雰囲気を感じることがある。彼らは特定な人物に強い関心を示す」と述べた上で、神学セミナーや修道院で同性愛者のネットワークが存在すると指摘。「彼らが教会や修道院で拡大、増殖していった場合、教会や修道院の存続が危機に陥る」と警告している(「教会内施設でホモ・ネットワーク」2010年5月26日参考)。
ハラムサ元神父はその著書の中で「教会内にはホモ・フォビアの声が強いが、自分の体験から言うと、カトリック教会聖職者のほぼ半分は同性愛者だ。にもかかわらず、教会側は同性愛者の聖職者を精神的、心理的、社会的に弾圧し、生きる道を閉ざしてきた。死に追いこまれた同性愛の聖職者もいた」と証言している。
教会では「ゆるしのサクラメント」が行われるが、元神父によると、「告解室でのテーマはほとんどが性に絡んだ問題だ。ウィーン大司教区のシェ―ンボルン枢機卿は『教会は信者の寝室に入り込むが、信者の日々の生活には関心を示さない』と述べているほどだ」という。
元神父は自身の同性愛について、「神の贈り物だ。性は人間に与えられたポジティブなエネルギーだ。しかし、教会は同性愛を動物的であり、家庭の調和と婚姻を崩す危険な敵と批判する」と主張する。
同元神父はその著書の中でフランシスコ法王と前法王ベネディクト16世についても言及している。以下はオーストリア放送が9日報じた部分だ。
「バチカン内にフランシスコ法王を陥れようとする陰謀や法王の信頼性を損なう試みがある。フランシスコ法王は教会が慈善、兄弟愛、連帯感の宗教のように振舞っているが、教会の実態を知らなければならない。バチカン教理省内ではフランススコ法王への憎悪が信じられないほど激しい。彼らはフランシスコ法王を無責任な進歩派と見なしている」
「ベネディクト16世は教会内のホモ・フォビアを扇動した法王だ。同16世は『同性愛者は人間としてまだ成熟していない。正常な人間関係ができない人間だ』と述べている。実際は、ベネディクト16世時代は歴代法王の中でも最も同性愛傾向が多くあった。2008年、国連で同性愛を刑罰の対象から外すアピールが提出されたが、バチカンは支持を拒否した。バチカン内は同性愛者の聖職者で溢れていることを隠蔽してきた」
最後に、同神父は「ペドフィリア(小児性愛)や未成年者への虐待事件は教会のメンタリティから組織的に発生してくる現象だ。そして教会側はそれを部外に漏らさないように隠してきた。一種のマフィアのオメルタの掟(沈黙の掟)が支配しているのだ」と説明している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。