ワシントンからの情報によると、トランプ大統領は今月下旬、就任初の外遊としてサウジアラビアを訪問し、サルマン国王と会見する。その後、22日にはイスラエル入りしてリブリン大統領とネタニヤフ首相、23日にはパレスチナ自治政府を訪問し、アッバス議長、24日にはバチカンでフランシスコ法王とそれぞれ会談することになっている。
トランプ大統領は3カ国訪問後、25日にはブリュッセルに飛び、北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に参加した後、26日から27日にかけイタリア・シチリア島で開催される先進7カ国首脳会談(G7サミット)に初デビューする。
米大統領が初外遊先に中東諸国を選んだ背景については様々な解釈が囁かれている。最も多く聞かれるのは、イスラム教国6カ国の国民の入国禁止大統領令などから定着した反イスラム・イメージを払拭したい狙いがある、というものだ。サウジを選んだ背景にはイランの脅威への対抗という政治的、戦略的意味が含まれているが、忘れてならない点は、サウジは米国製軍需品の最大の買い手だという事実だ。
しかし、それだけではないだろう。訪問先の中東地域はアブラハムから派生した3大一神教、ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の発祥地だ。トランプ氏の訪問は宗教的要素を抜きには語れない。
米紙ワシントン・タイムズによると、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)は「ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の祖国、聖地を一度の外遊で訪問した大統領はかつていない。トランプ大統領が願っていることは、平和、発展、繁栄という共通の価値観を中心に全ての信仰を持つ人々を連帯させる宗教的なメッセージを発信することだ」という。
サウジはエジプトと共にイスラム教スンニ派の中心だ。シーア派の拠点イランとの間で宗派間の対立が激化している時だ。シリア、イエメンではサウジとイランの代理戦争の様相を呈している。イスラム教過激テロ組織「イスラム国」(IS)とのテロ対策もある。トランプ氏が訪問する地域は宗教問題に絡んだ問題が山積している。そこにトランプ米大統領は少々駆け足訪問だが、足を踏み入れるわけだ。
トランプ大統領は就任後、イスラエルのネタニヤフ首相(2月15日)、ヨルダンのアブドッラー国王(2月2日、4月5日)、エジプトのシーシー大統領(4月3日)、そして5月3日にアッバス議長とワシントンでそれぞれ会談するなど、中東和平の実現に意欲を示している。
南米出身のローマ法王フランシスコは、スペイン日刊紙エルパイスとのインタビューの中で、「米国の新大統領に対する評価は発言ではなく、その行動によって測られるべきだ。米新大統領に対し恐れたり、喜んだりすることは賢明ではない」と述べ、早急な人物評価を一応避けてきた。
世界の紛争、戦争の背後には宗教的要因が少なからず絡んでいる。中東の現状を視察し、世界12億人以上の信者を抱えるローマ・カトリック教会の最高指導者、フランシスコ法王と会見することを通じ、トランプ氏の外交がより深まることを期待したい。
トランプ氏はプロテスタント派の長老派教会に所属している。幼い時から聖書に強い関心があったという。就任式には親の代からの聖書を持参し、その上に手を置いて宣誓式に臨んでいる。
ホワイトハウスには祈祷室があると聞く。困難や紛争に対峙した時、歴代の米大統領は神の前に跪いて祈った。トランプ氏が米大統領の良き伝統の継承者であることを願う。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。