一気読みした!『ブレンディッド・ラーニングの衝撃』

岩瀬 直樹

ちょっと前に『ブレンディッド・ラーニングの衝撃』を読み終えました。

おもしろくて1日で一気読み。

 

いやあ、★★★★★ですね。

クレイトン・クリステンセン
翔泳社
2008-11-20

この本の実践編と考えていいです。この本もおもしろかった。

学びの個別化を考えていくときに、避けては通れないオンライン学習。
翻訳本が出ているともつゆ知らず。発見できてよかった。

「ブレンディッド・ラーニング」とは、

少なくとも一部がオンライン学習から成り、生徒自身が学習の時間、場所、方法またはペースを管理する正式なプログラム(p47)

のこと。

同じICT活用でも、いわゆる電子黒板での授業や教師の指示によるタブレットの一時的な使用とは全く位置づけが違います。
学習者に主導権を渡した学び方といえます。

著者は、今の学校制度(学齢別学年制度、工場型教室モデル)は、これまでは時代に見合っていたとした上で、もうこのモデルは不十分だとしています。

〜二人の子どもが同じ年齢だからといって、同じペースで学び、同じ学びのニーズを持っているわけではないからです。子子どもは一人ひとり異なる学びのニーズを持ち、学びのペースも違うのです。認知科学者、神経科学者、教育研究者など専門家たちは、知能や学びのスタイルの違いについて激しく議論していますが。生徒によって学びのペースは違うということに異論を唱える専門家はいません。

〜すべての子どもたちが学校と人生で成功するよう願うのであれば、生徒一人ひとりの学習ニーズにあわせて教育をカスタマイズ、または個別化する必要があるということです。

しかしこれまでは、教師一人で30人もの学習をカスタマイズするのは不可能でした。

そりゃそうですよね。(愛知県緒川町立緒川小学校のような個性化・個別化教育のチャレンジはありましたが。)

だからこそ学齢別学年制度、工場型教室モデルがずっと残ってきたわけです。
しかしICTの発展によって一気にそれが可能になる!=ブレンディッド・ラーニングです。

ブレンディッド・ラーニングにより個別学習と習熟度基準学習が実現する。

自分のペース、自分の方法で学べる環境は、学習者にとってとても大事。自分のコントローラーを自分で持つことに他なりません。
この本にはブレンディッド・ラーニングのモデル分類(ローテーションモデル、フレックスモデル、アラカルトモデル、通信制モデル)とともに、その実例校が、動画のリンク(QRコード)と共にいくつも紹介されています。
この動画のリンクがいい。実際の様子がわかるので、本の理解が進みます。

例えばフレックスモデルのSummit public schools。
http://goo.gl/X2wT5U

ぼくはこの本の中で紹介されている学校では、ここが最も気になっています。
詳細は本を読んでいただくとして、サミット校の8つの特徴を紹介します。

①生徒主導
②個人の達成度
③(生徒自身の)学習データへのアクセスとフィードバック
④学習目標の透明性
⑤静かに一人で読書をする時間
⑥意義ある就業体験
⑦メンター体験
⑧前向きな集団体験

ね、気になるでしょう?

「ブレンディッド・ラーニング」は破壊的なイノベーション。

前作で言及されていましたが、今の教育が変わらないのは「誰かの怠惰や悪意」ではなく、人々の「努力や善意」こそが停滞をもたらす。一斉授業の改善は「持続的イノベーション」で結局変わらない。「学習の個別化」こそが「破壊的イノベーション」で教育を変える。新しい教育システムは、既存の教育システムから分離して導入を進めるべき。その実例としてのサミット校です。

ブレンディッド・ラーニングでオンライン学習を取り入れることで学校はどう変わっていくのでしょうか?
筆者によれば、オンラインで基礎学習教材を提供すれば、教師は空いた時間とエネルギーを、例えばプロジェクト学習などの深い学びのデザインに注力できるといいます。確かにその時間を生み出せることはとても重要だと思います。これは子供達にとっても同様で、個別学習で効率的に学ぶことで、そこで生み出される時間を有効に使えるといいます。

学校は授業以外の重要な課題に資源配分をシフトすべきです。たとえば、優れた対面でのカウンセリングやロールモデルの提供、討論会、振り返り、清潔で快適な環境、いじめの撲滅、栄養十分な食事、知識型市民の育成、健康福祉の増進、体育・音楽・芸術系のプログラム、生徒を創造的なイノベーターに転換すること等です

この本での指摘で特に印象に残っているのは、

教師の専門分野(例えば教科の専門性)は、より重要になる。

ということ。つい、
「そういう学びの場が成立すると、教師の重要な仕事は場づくりや、メンター、ファシリテーターの役割に徹することになるんじゃない?」
とぼくらは思ってしまいがち。
もちろんそれも大事だけれど、今まで以上に専門性が大事になると指摘してます。
なぜか?それはぜひ本書を。

もう一つは、ブレンディッド・ラーニングが成功するには

「学校文化(校風)」の醸成が不可欠である

ということ。個別化を「孤立化」にしないためにも重要。ではどんな学校文化がいいのか?

仮説を持ちつつ、是非本書をお読みください。
とここまで書いてきましたが、疑問点もいくつか。

1,日本でそこまで活用できるオンライン教材はあるのか?

2,数学、英語は親和性が高そうだが、国語は?

3,ほんとに教師の時間はそれで生み出されるのか?

4,パソコンにみんなが向かっている様子が楽しそうに見えないけれど、これはぼくの「既存へのとらわれ」の証拠なのか?

5,「最短距離」で学ぶのがいい学び方なのか?

・・・・と書いてきて自分の疑問点がはっきりしてきました。

オンライン教材である必要はどこまであるのか?

です。それこそそれが合う子もいれば、合わない子もいる。

アナログ教材でけっこういける気もする。

その時に重要なのはきっと学校文化、というかコミュニティの文化になっていくのでしょう。

http://iwasen.hatenablog.com/embed/2016/01/29/120047iwasen.hatenablog.com

 

「でも学習の進捗管理はICTが絶対いいな」とか、

「おもいきって取り入れることで、そもそもから問い直すきっかけになるのかもな」とか、いろいろ思考を深めたい問いが生まれた良書でした。

日本の学校教育パラダイムがいかに遅れているかを実感します。

 

「興味はあるけれど、本を読むよりも動画とかのほうが学びやすいんだよね、自分」という方は、なんとカーンアカデミー(反転学習で有名ですね。これもブレンディッド・ラーニングのひとつ)に動画が多数あります。

ぼくは通勤電車の中で全部見ましたがとてもわかりやすい!日本語字幕もついていて(!)おすすめです。

www.khanacademy.org

 

あすこまさんのブログにこの動画サイトが紹介されていて、見ることができました。

2014年から注目していたなんて、どんだけアンテナが高いのだろう・・・・

askoma.info

 

このつながりで、ネット界で話題(?)のN高校についても読んでみました。

キンドルで購入して、お風呂で一気読み。

 

 

いやあ、これもまた刺激的。

ある意味これもブレンディッド・ラーニングだ。

Alt Schoolといい、サミット校といい、実際に見てみたい学校が増えてきた。

どこでもドアがほしい・・・


編集部より:このブログは一般社団法人「軽井沢風越学園」発起人、岩瀬直樹氏(東京学芸大学准教授)のブログ「いわせんの仕事部屋」2017年5月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は岩瀬氏のブログをご覧ください。