①金正恩氏
「若いのに国を動かしている。たいしたものだ」、「適切な状況になれば、金正恩氏と直接会談する用意がある」(5月1日の米ブルームバーク通信から)
「核兵器を振り回しでいる頭のおかしい男だ」(4月29日、フィリピンのドゥテルテ大統領との電話会談で)
上記の発言はいずれもトランプ米大統領のものだ。北朝鮮の最高指導者、金正恩労働党委員長は果たしてどちらだろうか。それ以上に大切な点は、金正恩氏は自身に対する米大統領の人物評のどちらを信じるだろうかだ。換言すれば、前者の発言を信じて、発言した人物と対話するだろうか、それとも後者の侮辱発言に怒り、核兵器のボタンに手をかけるだろうか。ハムレットではないが、金正恩氏にとって国の命運をかけて深刻な課題だ。
②ローマ法王フランシスコ
「お会いして大変光栄です。法王は偉大だ」(5月24日、トランプ大統領とローマ法王の初会見で)
「人の信仰に疑問を投げ掛けるのは恥ずべきこと」(昨年の米大統領選で「壁を建設する者はキリスト信者ではない」といったローマ法王への反論)
上記の発言は世界に12億人の信者を擁するローマ法王フランシスコに対するトランプ大統領の発言だ。ペテロの後継者のフランシスコ法王は果たしてトランプ氏のどちらの人物評を好むだろうか。謙虚と寛大、慈愛を日々説くフランシスコ法王のことだ、トランプ氏の批判に対しては何も気にしていないだろう。実際、法王は「政治家の評価は何を話したかではなく、何をしたかだ」と述べているからだ。
ただし、フランシスコ法王も人間だ。自分を批判した米大統領と会見することは容易ではなかったのだろう。トランプ大統領、メラニア夫人らとの記念写真の時のフランシスコ法王の表情を思い出してほしい。あんな苦々しい顔をしたフランシスコ法王をこれまで見たことがない。ローマ法王をしてもトランプ氏との会見は容易ではなかったことが推測できる。
テーマに入る。金正恩氏は「頭のおかしい男か」、それとも「たいした若者か」は既に答えが出ているのでここでは言及しない(「金正恩氏の『パラノイア説』」2017年3月11日参考)。考えたいことはトランプ大統領が金正恩氏をどのように考えているかだ。称賛する一方、口悪くけなす。その人物評は180度異なっている。同じことがローマ法王への人物評価でもいえる。ローマ法王を批判したトランプ氏の発言はある意味で貴重だが、会見後の法王評はコロッと変わり、「法王は偉大だ」となる。
とにかく、トランプ氏の発言は一貫性がなく、コロコロと変わる。トランプ氏に評価された人物(例・安倍晋三首相)も後日、こっぴどく酷評される不安は払しょくできない。このようにしてトランプ氏の発言は世界の指導者を悩ますことになる。大国・米国の大統領から好ましい人物と受け取られたい世界の指導者は少なくないからだ。
そこでトランプ氏の発言はなぜ変わるかを考えてみた。
①とにかく激情的、感情的で、気分に大きく左右される(性格説)
②トランプ氏が実業界で学んできた戦略、自分より弱い立場の相手の心を不安に落とし、有利な条件を引き出す(トランプ流ディール説)
③思ったこと、感じたことを素直に表現するお人よし、問題は表現力が少々劣るため、相手から誤解される(誤解説)
④巨額の富をもつ人物に見られやすい相手への潜在的侮辱、軽蔑心、心因性疾患の傾向もみられる(金満家症候群説)。
以上、4つの可能性を挙げてみた。ひょっとしたら別の分析も考えられるかもしれない。米国の少なくとも半分はトランプ氏を支持した。その結果、第45代米大統領に選出された人物だ。世界はトランプ氏の言動を批判するだけではなく、理解する努力をすべきだろう。解任されない限り、世界は4年間、トランプ氏と付き合わなければならないのだ。
トランプ氏がある日、突然、ゴルフ仲間と思っていた安倍晋三首相を激しく批判したとする。安倍首相を含め日本国民はビックリしたり、不安に駆られる必要はない。トランプ氏は気分を害した時には、ローマ法王に対しても率直に反論する人間なのだ。日本の首相を罵倒したとしても決して驚くべきことではないのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。