新郷 由起
宝島社
2017-02-23


タイトルだけ見て、NHKが日曜夜に視聴者を恐怖のどん底に叩き落とした特集「老人漂流社会」を連想する人も多いかと思うが、中身はそこまでハードモード人生なものではない(というか宝島はタイトル釣りすぎ!)。

もちろん一部に絶望気味の人も出ては来るが、大半はどこにでもいるごく普通の老人たちのインタビュー集だ。

余談だが、メディアが老人とか格差社会をテーマに特集を組むときは、たいていとびっきり強烈なインパクトのケースを紹介するものだ。なぜなら、その方が視聴者に受けるから。それが悲惨であればあるほど、視聴者は自らの相対的な豊かさを実感して安心できる。「大変だなあ、可哀想だなあ」と口に出しつつも、心の底では「自分はああはならない」と分かっているから、しばらくすればきれいさっぱり忘れてしまえる。

だから、ああいう格差とか貧困の特集というのは何も解決しないし、何かの参考になるということもない。所詮はエンタメなのだ。

筆者は以前から「普通の老後を迎えた普通の老人に、今、何が起こっているのか」ということに非常に興味があったのだが、本書はそういう意味では最良の一冊と言えるかもしれない。

普通に結婚して子供も巣立った後の老人から、独身のままリタイアして一人暮らしする老人、家族はいるものの自分の意思で縁を切った老人、河川敷でホームレスとして生きる老人など、様々な形態の老人たちが登場し、現在の生活について率直な思いを述べる。

では、経済的余裕さえあれば老後は安泰なのか。
頼れる血縁者のいない高齢者はみな、憐れで、誰もが悲惨な末路を迎えるのか。
(中略)
気が遠くなるほど長く延びた老いの日々を幸福に導くもの、絶望へ追いやるものとは何か。その分岐点と、おいて生きる上で真に必要なものを問うていきたい。

と前書きにもあるように、まず意外なのは経済的余裕があっても必ずしも幸せだとは言い切れない点だ。

たとえば、銀行マンとして現役時代は仕事漬けの日々を送って出世もし、高額の退職金と豪邸を手にリタイアしたものの、妻は早々に病死。なかなか定職に就かない長男夫婦に無心されるうち、結局、退職金も家も処分するはめになった老人もいる。

また、入居一時金が3千万円を超えるような富裕層向けの有料老人ホームに入居すれば何の心配もいらないかというとそうでもない。上げ膳据え膳、栄養管理も投薬もバッチリ管理してもらえる暮らしでは、人間としての様々な能力はむしろ急速に衰えるらしい。

「衰えの進みにくい体づくりのためには人生後半の食生活が最も重要で、それには正しい知識を得た上で、自分でやれるうちは自力で賄うのが一番なのです。というのも『食事を用意する』という行為には、たくさんの高次機能が凝縮されているから。買い物に出かければ歩くし、店先に並んだ旬の食材を目にして季節を感じることもできる。(中略)様々な機能はいつも使っていれば衰えにくく、適度な負荷をかけることで老いの抑制につながるのです」
(人間総合科学大教授・熊谷修氏)

逆に、河川敷に気の合う仲間と“集落”を作って気が向いた時だけ日雇い仕事をしているホームレスの爺さんたちの話が、実はいちばん明るかったりする(笑)

キャリアも同様で、大企業の役員や先生と呼ばれる立場の人ほど、老後の新たな職場や地域の共同体などで行き詰まる人が多い。柔軟性が無く、現役時代と同じ高い地位で扱われることを望むためだ。地域のイベントなどでも手より口を動かすだけで、注意されると怒ってそれっきり顔を出さなくなる人も珍しくないという。

年を重ねるだけでは“人生の達人”になれない

コップの水が7割方入っているのを「満杯じゃない」と受け取るか「半分以上も入っている」と捉えるか。

必要なのは「足るを知る」感覚を踏まえて、生きる知恵と生活力を備えること。
「たくさんのお金がなければ生きられない」「幸せを感じられない」生活と価値観に固執せず、限られた収入のなかで生きられる知恵や工夫、方法を身につけ、その中で自身が楽しめる人生の目的と手段をえることだ。

言い換えれば長い人生経験の中で、どのような状況でも自分を“活かして”生きる力を養ってこなかった人、生きるセンスを培えずにいた人ほど、長く延びた老いの日々を苦心して送ることになる。

結局のところ、老後というのは、肩書とか誰かに与えられた役割とか、そういうしがらみが一枚一枚剥がれ落ちて行って、最後に自身が人生で培った地肌が丸裸になることなのだろう。

さて、以下は筆者のメモ。

筆者の見たところ、充実した老後を過ごすためのポイントは以下の4点だ。

1.とにかく人とのつながりを維持する

一部の人の夢を壊すようで悪いが、やっぱり“独身貴族”なんてものは幻想で、独身で老後に突入した人はほぼ絶望寄りの状況に陥っている。一人暮らしをしていても離れて暮らす家族がいるか、気の合う友人知人とある程度のコンタクトを持たないと、相当厳しい老後になることは覚悟しておいた方がいい。

2.常に新しいことへの好奇心を持つこと

老いて生きる上で一番必要なものは何だと思いますか、と問われた一人の老人は“好奇心”と答えた。

「これをなくすと一気に老け込む。年を取れば、どうしたって先行きを暗く感じたり、やりきれない思いは増える一方だと思うんだよね。だからこそ、新しいものを吸収しようとする気持ちや行動力を増やしていかないと、ひしゃげちゃう。いやなことがあっても前向きに老いていきたいじゃない。せっかく一度きりの人生なんだからさ」

これはキャリアデザインにも通じる話だ。好奇心を失うと人材は伸びなくなる。

3.何でもいいから趣味を持つこと

よく言われる話だが、仕事一筋で無趣味の人ほど、老後に一気に老け込むものだ。それを防ぐには長く続けられる趣味を一つは作っておくべきだろう。筆者がなるほどなと感心したのが、裁判の傍聴シニアの話だ。朝から公判をはしごしてほとんど終日を裁判所で過ごす人までいるらしい。

「ここではつくりもののテレビドラマなんか足元にも及ばない、本物の人間ドラマが生で見られるんだ。しかもタダで。『世の中にはこんな犯罪があるんだ』とか『こういう事情があったんだ』とか、弁護人と検察官のやり取りとか、飽きないよねぇ。(中略)テレビなんか見てるより、よっぽど面白いよ」

他にはボランティア活動なども。これなら1番も同時にカバーできる。

4.仕事も生活も、地に足のついた状態をキープしておくこと

と書くとちょっとわかりづらいかもしれないが、筆者の見たところ、老後に困っている人が直面している困難の根っこは、すべて現役時代の行いにあるように見える。たとえば仕事一筋で土日はゴルフ三昧だった男性が息子にたかられるのは、突き詰めれば「それくらいのことやってもいいだろう。なんせあのオヤジなんだから」と足元を見られているのが原因だ(ついでに言えば自身も悪いことをしたと後悔しているから断り切れない)。

老後に再就職や地域活動で行き詰まる人は、中高年になってから分相応の地位について胡坐をかいていた結果だろう。自身の分をわきまえている人、あるいは掛け値なしに本当にすごい人というのは(飾る必要が無いから)姿勢が低く人当たりも優しいものだ。

要するに、仕事でも家庭でも、求められる役割はしっかりとこなし、実のあるものにキープしておくこと。仕事を理由に家庭をおざなりにしたり、年功序列のレールの上でうとうとしながら後半生を働いてきてしまったりすると、必ず老後のどこかでしっぺ返しが来ることになるように思う。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年5月27日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。