精神科医が解説!なぜ夏休みの宿題は1日でできるの?

写真は講演中の樺沢医師。


まもなく梅雨入りである。梅雨が明ければ楽しい夏休みがやってくる。しかし、夏休みは大きな試練でもある。子供には「夏休みの宿題」という難題が待ち構えているからだ。夏休み終盤になって、一気に片付けて、2学期を迎えたという経験はないだろうか。

精神科医、作家として、精神医学や心理学の情報を発信している、樺沢紫苑(以下、樺沢医師)は、「日本で最もインターネットに詳しい精神科医」として、雑誌、新聞などの取材やメディア出演も多い。今回は、「正しい時間術」について伺った。近著に『脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(大和書房)がある。

最高のパフォーマンスを発揮する脳の仕組み

――そういえば、なぜ夏休みは1日で片付けることができるのだろうか。人間は切迫した状況に置かれると、想像できないような力を無意識に発揮することがある。

「多くの人が、夏休みの宿題を最後の1日、あるいは最後の数日で片づけた経験があると思います。宿題が1日で終わるのであれば、最初の1日で全部やってしまえばいいと思いますが、実はそれはできないのです。限界状況に追い込まれた人間が、実力以上の力を発揮することは、昔から知られています。」(樺沢医師)

「また、あなた自身も、夏休みの宿題に限らず、『明日までの締め切り』といった期限が迫った仕事に取り組む場面で、『火事場の馬鹿力』を実感したことがあるはずです。制限時間を決めると仕事は効率化します。『1時間で終わらせる』といった時間単位で制限時間を設けると効率は高まります。」(同)

――たしかに具体的に期限を設定することで集中力が高まることがある。集中力が高まれば仕事の効率がアップすることは間違いない。

「なぜ人間は追い込まれると、そこまでのすごい力を発揮できるのでしょうか。これもまた、脳科学的に説明されます。人は追い込まれると、脳内でノルアドレナリンが分泌されます。ノルアドレナリンは、集中力を高め、学習能力を高め、脳を研ぎ澄まします。結果として、脳は最高のパフォーマンスを発揮するのです。」(樺沢医師)

「人間は、素晴らしい「緊急応援物質」を持っています。たとえば、原始人がサーベルタイガーと出会った状況を想像しましょう。サーベルタイガーと闘うか、逃げるか、選択肢は二つしかありません。『えっ!どうしよう』と悠長に考えていると、間違いなくサーベルタイガーに殺されてしまいます。」(同)

――樺沢氏によれば、このようなピンチに陥ったときに、ノルアドレナリンが分泌されるとのことだ。正しい判断を瞬時にくだせるように、ノルアドレナリンは集中力を一気に高めて、脳の働きを研ぎ澄ましている。

「人間は、追い込まれたときに、最高のパフォーマンスを発揮できるように設計されているのです。命の危険という状況でなくとも、『今日中に、この仕事終わらさないとヤバい』という状況や、試験の直前の『ああ、緊張してきた』といった軽い緊張や不安の場面でも、ノルアドレナリンは出ます。」(樺沢医師)

「締め切りや制限時間を決めることで、集中力を高め、仕事の効率をアップさせる。それが、『制限時間仕事術』です。」(同)

時間(締め切り)を「見える化」する

――制限時間を決めるだけで、仕事効率がアップすることは理解できた。そして、さらに仕事効率をアップさせるには時間を「見える化」する必要がある。

「『この書類は、3時までに完成させる』『この書類は、今から1時間で完成させる』というように、自分で締め切り時間、終了時間を設定すればいいだけですから、今日からでもすぐに実行してください。制限時間を決めたなら、ストップウォッチを使って、時間を『見える化』すると、さらに効率がアップします。」(樺沢医師)

「なかには、アラームを使用する人もいるでしょう。アラームだと時間内に終わらない場合、集中力が高まった追い込みの瞬間にアラームが鳴る可能性があります。そうすると、せっかく高まった集中力がリセットされてしまいます。私はアラームよりもストップウォッチをおすすめします。」(同)

――なお、著名人の間でもストップウォッチの愛用者は多いとのことだ。

「仕事術や読書術などたくさんの著書を出されている明治大学教授の齋藤孝先生は、常にストップウォッチを持ち歩き、『ストップウォッチがなければ仕事にならない』とまで言っています。脳科学者の茂木健一郎先生もストップウォッチの愛用者であり、時間制限すると仕事効率が上がると著書の中で書いています。」(樺沢医師)

――「仕事術の達人」は、例外なく「制限時間仕事術」を実践しているようだ。本書は医学的な見地から、「時間術」がわかりやすく解説されている。多くのビジネスパーソンに参考になることだろう。

参考書籍
脳のパフォーマンスを最大まで引き出す 神・時間術』(大和書房)

尾藤克之
コラムニスト

<アゴラ研究所からお知らせ>
―2017年5月6日に開講しました―

第2回アゴラ出版道場は、5月6日(土)に開講しました(隔週土曜、全4回講義)。
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