トランプ米大統領はサウジアラビア、イスラエル、パレスチナ自治区とバチカン市国を訪問後、25日にブリュッセルに飛び、北大西洋条約機構(NATO)首脳会談に参加した後、26日から27日にかけイタリア・シチリア島のタオルミーナで開催された先進7カ国首脳会談(G7サミット)に初デビューした。事前に予想されたことだが、保護貿易、気候変動問題、難民対策などで他の参加国との間で不協和音が目立った。
欧州連合(EU)の盟主ドイツのメルケル首相は28日、ミュンヘンで開催された「キリスト教社会同盟」(CSU)の集会で演説し、「米国は欧州の信頼できるパートナーではなくなった」と述べ、トランプ米政権に強い不満を表明した。それだけではない。他の欧州諸国に向かって、「われわれは自立していかなければならない」と欧州の米国離れとも受け取られる発言をしている。
メルケル首相の真意を理解するために演説原文(独語)の一部を紹介する。欧州の米国からの「独立宣言」といえる内容だ。
Die Zeiten, in denen wir uns auf andere vollig verlassen konnten, die sind ein Stuck vorbei. Das habe ich in den letzten Tagen erlebt. Wir EUropaer mussen unser Schicksal wirklich in die eigene Hand nehmen.
(相手(米国)を完全に頼ることができた時代は過ぎた。そのことをここ数日(サミット会議)、私は体験した。私たち欧州人は自身の運命を自身の手で切り開いていかなければならない)
タオルミーナG7サミット会議での大きな課題は、
①気候変動に対応する国際枠組み「パリ協定」の米国の離脱問題
②“米国第一”を標榜し、保護貿易に傾く米国に対し、反保護貿易をサミット会談で宣言する
—ことだった。
前者は米国が次週中に最終決定を下すことになったが、米国の「パリ協定」離脱の可能性は高い。保護貿易問題では貿易の自由を推進する反保護貿易で一致し、首脳宣言では「保護主義と闘うことを確認」と明記された。トランプ大統領が譲歩したかたちだ。
米国と他の主要参加国との間の対立点は解決したわけではない。トランプ大統領の強硬姿勢に直面した他の参加国は、「米国との関係がこれまでのようにはいかなくなった」という印象を強く受けたはずだ。それがメルケル首相の「欧州独立宣言」となったわけだ。
例えば、サミットのホスト国イタリアにとって北アフリカからの難民問題は急務だった。それだけに、G7サミット参加国から連帯を期待していたが、対メキシコ国境沿いに壁建設を主張するトランプ大統領の賛同を得ることはできず、首脳宣言では「移民の人権尊重」と共に、「主権国家の国境管理の権利」が強調された。
欧州は“米国第一”のトランプ政権の出現だけではなく、英国のEU離脱が差し迫ってきた。G7サミット会議12回参加の記録を有するメルケル首相は今回、時代の大きな変動を肌で感じただろう。メルケル首相は今後、エマニュエル・マクロン新大統領を迎えたフランスとの結束強化を進めていく意向という。
ちなみに、トランプ米大統領は25日にベルギーでEUのトゥスク大統領らと会談の中で、ドイツの対米貿易の過大な黒字問題を指摘し、「ドイツを厳しく批判した」という。
トランプ氏はメルケル首相の難民歓迎政策に対しても厳しく批判してきた経緯がある。トランプ氏は米紙とのインタビューでメルケル首相の難民政策を「カタストロフィーだ。難民がどこから来たのか誰も知らないのだ」と酷評している。
ドイツとしてはトランプ大統領との関係改善が急務となる。メルケル首相にとって、ウクライナのクリミア半島のロシア編入問題でロシアと対立を抱えている現時点では米国との連携は不可欠だからだ。
なお、G7サミット会議参加6回目の安倍晋三首相は北朝鮮の核・ミサイル問題について、「新たな段階の脅威になった」という文面を首脳宣言の中に明記させたことでポイントを稼いだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。