世界的に活躍したロックグループもメンバー間のいがみ合いや個性の違いから解散に追い込まれるケースが過去、少なくなかった。ビートルズ後のBritpopの後継者といわれた「オアシス」もそうだった。「オアシス」は世界的なヒット曲を次々と発表したが、結成18年後、解散した。
「オアシス」の場合、作曲はノエル・ギャラガー、ボーカルは弟リアム・ギャラガーが担当してきた。もちろん、「Don’t Look Back In Anger」はノエルが作曲し、歌ってヒットした曲だ。一方、優しい小曲「Songbird」はリアムが作曲し、歌った。いずれにしても「オアシス」はギャラガー兄弟のロックバンドだった。
アイルランド系の労働者家庭出身のギャラガー兄弟の「オアシス」は1991年に結成され、2009年に解散したが、その原因はノエルとリアムの兄弟関係がうまくいかなくなったからといわれている。
コンサートが始まるのに姿を見せないリアムに、イライラする兄のノエル、といったシーンが少なくなかったという。リアムの行動に頭に来たノエルが弟をなじることがあった。結成から18年後、両者の関係は破綻した。ノエルは自身のバンド「ハイ・フライング・バーズ」を結成してコンサート・ツアーに出ている。リアムは兄に度々、再結成を打診したが、ノエルは「俺はもう嫌だよ」と断ってきたという。
「オアシス」の出身地、マンチェスターでは先月24日夜、英国最大のコンサート会場「マンチェスター・アリーナ」(2万1000人収容)で米人気歌手のアリアナ・グランデさん(23)のコンサートが開かれたが、彼女が歌い終え、舞台から姿を消した直後、会場ロビー周辺でイスラム過激派の自爆テロが発生し、少なくとも22人が死亡、59人が負傷した、犠牲者の22人のうち、12人は16歳以下で、最年少は8歳の女の子だった。
その慈善コンサートが今月4日夜、マンチェスターの野外競技場で5万人以上のファンを集めて米人気歌手のアリアナ・グランデさんの声かけで開催された。自爆テロ事件の犠牲者を追悼するコンサート「One Love Manchester」には、地元マンチェスター出身のリアムがドイツから飛んできて参加、カナダからは若者のアイドル、ジャスティン・ビーバーさんも参加した。欧州の主要テレビ局は同慈善コンサートをライブ中継した。
リアムは慈善コンサートでは3曲歌った。そこまでは良かったが、リアムは翌日、コンサートに参加しなかった兄ノエルをツイッターで厳しく批判している。曰く「すごくがっかりした。自分は一緒に参加しようとイタリア休暇中のノエルに電話したが、彼は電話を取らなかった」と述べている。「オアシス」の本拠地マンチェスターでテロが発生し、その犠牲者への慈善コンサートだったのだ。リアムの批判は理解できる。
当方はリアムのノエル批判をインターネットで見つけ、「ノエルはどうしたのだろうか。彼なら真っ先に参加を快諾したはずだ」と考えていたが、後日、「ノエルは自身のヒット曲『Don’t Look Back In Anger』の印税をテロ事件の犠牲者の支援に寄付するように既に手配していた」という話を聞いた。「俺は慈善コンサートに寄付したよ」と言わない。ノエルらしい。それを知らずに、ノエルを批判したリアムもリアムらしい。兄に慈善コンサートに参加してほしかったのだ。
話は長くなった。ノエルとリアムの兄弟関係にはいろいろと教えられるものがあるからだ。夫婦関係についてはさまざまな助言集やアドバイスの本が見つかるが、「どうしたら兄弟関係がうまくいくか」をテーマに親身に教えてくれる本は少ない。
人類の始祖アダムとエバの間にはカイン(兄)とアベル(弟)の2人の息子がいたが、カインのアベル殺害以来、兄弟関係は夫婦関係と同じように容易ではなくなり、理想的な兄弟関係を築くことは大きな課題となってきた。旧約聖書「創世記」にはエソウとヤコブの兄弟が和解したことが記述されている。人類史上初めて兄弟が和解したエソウとヤコブ兄弟の話を詳細に検証すべきかもしれない。
ノエルとの関係を問われたリアムは、「僕はノエルを愛しているよ。彼とバンドを組んでいた時代は楽しかったよ」と述べている。ノエルは子供時代、父親によく叩かれたが、末弟リアムは愛されてきた。ノエルもリアムも酒飲みで乱暴だった父親は好きになれなかったが、母親には心が行く。苦労した母親を知っているからだ。ノエルとリアムが母親に「もっと大きな家を買ってあげるよ」というと、母親は「ここでいいよ。壊れた庭の戸を直してくれればそれだけでいいよ」と言って、今も昔の家に住んでいる。
兄弟関係の和解には母親が大きな役割を果たすものだ。ノエルとリアムは愛する母親の支えを受け、山あり谷ありだった「オアシス」時代、多くの素晴らしい歌を世に出すことができたのだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。