カタール断交問題が英国のガス供給に悪影響を

6月5日(月)サウジ等により突然カタールとの断交が発表されたが、カタールからの原油及びLNG輸出には大きな影響が出ないまま1週間が過ぎた。原油市場も本件にはほとんど影響されず、NYMEXのWTI終値は、断交前の6月2日(金)が47.66ドル/バレル、断交発表の5日(月)は47.40ドル、そして一週間が経った12日(月)は46.08ドルだった。

「地政学リスクが高まっているのに原油価格が上がらないのは・・・」と得意げに説明するむきもあるが、筆者は市場が成熟してきた現れだと判断している。1859年以来の原油価格の歴史を振り返って書いた弊著『原油暴落の謎を解く』(文春新書、2016年6月20日)で結論づけているとおり、現在、原油価格を支配しているのは「市場」であり、正確に言えば「市場参加者」が需給バランスの行方をどのように読んでいるか、ということなのだ。

ここ1週間の動きは、今回のカタール断交の影響を市場が冷静に読み込んだ反応なのだろう。もちろん市場参加者の中には、短期的利益追求のために「市場」を動かそう、と意図的にある方向に売り買いを集める人々もいるのは事実だ。だが、一日の取引高が10億バレル(50ドルとして500億ドル)を超えており、株式市場で「建玉」と呼ばれている未決済取引残高(Open Interest)が22億バレル(同じく1,100億ドル)程度となっている規模の市場を、自ら望む方向に動かそうとしても、短時間しか実現できないのが実態なのだろう。

現時点で注視すべきは、サウジ等が現状以上の「措置」を取るかどうか、であり、カタール側がドルフィン・パイプライン経由のUAE向けガス供給を止めるかどうか、だろう。

そんな中、FTが “Qatar diplomatic spat reignites UK gas supply fears” (around 23:00 on June 12, 2017) という興味深い記事を掲載していた。

読んでみて思うのは、石油及びガスの需要量のほぼ100%をタンカーによる輸入に頼っている日本は「大自然の脅威・台風の前になす術なし」の状態でいいのだろうか、という根本的な疑問である。

読者の皆さんはどう思われるのであろうか。

さて、スペースの許す限り、記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

・カタール断交を巡る問題は、英国において国内シェール開発問題に加え、依存度が増している輸入ガスの問題を浮き彫りにしている。短期的には、エネルギー需要が低下する夏を迎えているので喫緊の課題ではないが、長期的には英国のエネルギー安全保障への疑問が投げかけられているとアナリストたちは指摘している。

・(ガスについては)英国は長いあいだ自国領の北海とノルウエーおよび他の欧州諸国(本記事の中で一度も「ロシア」の名前を出していないのが興味深い)からの供給に頼ってきたが、北海の産出ガスが減少し、徐々にカタール等からの輸入LNGへの依存度を増してきた。

・あるコンサルタントは、Brexitがもたらす欧州からの供給問題に加え、長期間課題を抱えている英国最大の貯蔵サイトのリスクがある、と指摘する。ヨークシャー沿岸のRough貯蔵サイトには3億立米(LNG換算22万トン)のガスがあるが、来年5月まで新規供給をうけないことになっており、同コンサルタントは再開そのものに疑問を呈している。これは、需要期に供給がタイトになった時のバックアップ供給源だ。

・英国は、ガス供給の17%をカタールなどからのLNGに、38%をノルウエーや欧州大陸からのパイプライン供給に頼っている(国内産が45%ということ)。National Grid(国内ガス輸送システム管理機構)曰く、2030年までに需要の60%以上が輸入に依存することになる、と(BP統計集2016によると、2015年の英国のガス生産量は397億立米、消費量は683億立米=LNG5,500万トン相当)。

・UKシェール開発業者たちの代表であるUK Onshore Oil & Gasのトップは「我々の足元に眠っているガスの開発が至急必要だ」と主張する。地質研究によれば、英国にも米国と同じような水圧破砕法によって生産が可能なシェルーガス・オイル(原文は、tight resources)が大量に存在すると見られており、英国政府は開発を支持しているが、地元の反対などにより進捗していない。

・昨年の電源燃料の40%以上がガスだった。環境に相応しくない石炭火力の閉鎖が進んでおり、ガス火力の比率は伸びている。風力や太陽光などの再生エネルギーも増えており、先週水曜日には初めて50%以上となった。だが、安全保障上の観点からはガスの重要性がさらに高まっている。なぜなら、風が止まったり、太陽が差さなかった時の穴(gap)をうめるためにガスが必要だからだ。

・緊張は高まったままだがカタールLNG輸出は、カタール関連の船が周辺の港に入れないというロジスティック上の問題はあるが、平常通りだ。コンサルタントWoodMacの一人曰く、「いっぺんに多くの問題が発生しない限り、英国がガス不足になる心配はない」と。

・WoodMacによれば、カタールからのLNG輸入は2011年以来半減し、昨年は720万トンだった(2015年は1,170万トン)。今年はこれまで220万トン。代替ソースとして米国などがある。米国からの欧州向けLNGは先週、最初の2船がオランダとポーランドに到着した。世界のLNG供給は、米国及び豪州の新規生産開始により、2015年から2020年までに約50%増加する見通しだ。

・だが短期的には若干のLNG価格の上昇が見られる。あるガス・トレーダーはいう、紅海に向かっていたLNG船2隻が突然南向きに航路を変えた、おそらくアフリカ周りで欧州に向かうものと見られる、と。あるアナリストは、利用は国際条約によって保証されているが、現在エジプトがLNG船に割引を行っているスエズ運河通行料の値引きを、カタールLNGには適用しないリスクを心配しているのかもしれない、と分析している。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年6月13日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。