モスクワやサンクトペテルブルクなどロシア全土の145カ所以上の都市で12日、クレムリンの腐敗政治、縁故主義などに抗議する反プーチン(大統領)デモが行われた。シベリアのノヴォシビルスクでも同日、3000人がデモ集会に参加したという。12日は通称「ロシアの日」と呼ばれ、旧ソ連からの「独立記念日」的な祝日だった。
治安部隊は非認可集会としてデモ参加者に強硬姿勢で対応、多数を拘束し連行した。モスクワだけでも700人、サンクトペテルブルクでも500人以上が拘束されたという。
ロシアでは今年3月26日、2万人以上の国民、特に若者たちが反プーチンデモに参加して、クレムリンばかりか欧米諸国をも驚かせたばかりだ。今回のデモも3月デモと同様、反クレムリンの活動家アレクセイ・ナバリヌイ氏が呼び掛けたものだ。
モスクワからの情報によると、同氏は同日午前、デモ会場に向かう前、モスクワの自宅で拘束された。ナバリヌイ氏のユリア夫人(Julia Nawalnaja)は、「アレクセイは自宅で逮捕された。デモは予定通り行われる。変更はないと伝えてほしいと述べた」というメッセージをツイッターで発信している。同氏は3月のデモでも拘束され、15日間拘留された。今回、非許可のデモ集会を開催した容疑で30日の身柄拘束が言い渡されている。同氏の広報担当者によると、同氏の事務所は電気が止められてしまったという。
ちなみに、ナバリヌイ氏は41歳で弁護士。2014年には反汚職、親欧州路線の政治を掲げて2011、12年の反政府デモを指導した人物であり、モスクワ市長選候補者でもあった。自身のブログで政治家たちの汚職を次々と暴露してきた。2018年3月の大統領選に出馬を表明している。
デモ参加者たちからは「プーチン、やめろ」、「ロシアの恥だ」、「プーチンは盗人だ」といった批判の声が聞かれた。治安部隊は催涙ガスなどで応戦し、抵抗するデモ参加者を次々と連行していった。
それに先立ち、治安当局はデモ集会の場所の変更を要求したが、ナバリヌイ氏は断り、予定通り、モスクワ中心部でデモ集会を呼び掛けた。そのため、治安当局は「認可されていないデモ集会は公共秩序を乱す」として、強制取締りに出たという(「ロシアの若者たちは目覚めたのか」2017年4月10日参考)。
米国政府はロシア当局のデモ参加者拘束を批判し、「平和デモ参加者の即釈放を願う」(ホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官)と表明。欧州連合(EU)のアントニオ・タヤー二欧州議会議長は、「ロシアの状況は懸念される」と述べ、国際アムネスティは、「警告を発せざるを得ない状況だ」と指摘している。
ロシアでは5年前、反プーチン大統領のデモ集会が各地で開催されたが、反体制派活動家たちは徹底的に弾圧され、刑務所などに送られた。その後、5年余り、反政府デモはなかった。それが今年3月26日、10代後半から20代初めの青年たちが多数参加したデモ集会が開かれた。ロシアの政治学者は、「25歳以下の若者たちがこれほど多くデモ集会に参加したことは近年見られなかったことだ」と受け取ったほどだ。
独週刊誌シュピーゲルは3月のデモの時、「若者たちはプーチン大統領に抗議するために路上に出てきたのではない。ロシア社会を覆う停滞感に対しやり切れない思いから路上に出てきたのだ」と記していたが、6月12日のデモは3月デモ時より反プーチン色を強めてきている。来年3月の大統領選を控え、ロシアの政情は夏季休暇後、一層緊迫すると予想される。
なお、プーチン大統領は15日、慣例のテレビ討論会に参加し、国民の質問に応答する。そのやり取りが注目される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。