東京ネイティブの人は地方が嫌い?

荘司 雅彦

私が司法試験受験生をしていた頃、受験仲間の一人に全国転勤のある職場に勤めている夫と結婚している女性がいました。

何かの拍子に私が「ご主人が地方に転勤になったらどうするのですか?」と訊ねたら、「一人で行ってもらいます。私は絶対に東京から離れません」と断言され、驚いた経験があります。ちなみに、彼女は東京生まれの東京育ちでした。

地方で弁護士をやっていた頃、「地方では暮らせない」という理由で離婚問題に発展した例を数件見てきました。中には、「名古屋が限界」と妻に告げられ、名古屋からわざわざ松阪に毎日通勤していた夫がいました。しかし、それから1年程度で「やっぱり東京に帰る」と妻から離婚を切り出されました。

昨今、都会の若者を移住させるべき、あれこれ工夫をしている地方自治体があります。しかし、先の例のように「東京しか嫌だ」という人たちがたくさいると仮定すると、地方での定住が困難なのではないかと不安になります。

私自身は、高校を卒業するまでずっと地方に住んでいたので、地方暮らしにさほど抵抗はありません。

銀行員時代に新卒で高松支店に配属された時も数ヶ月でしっかり馴染み、その後の司法研修所の実務修習地として高松を第一志望にしたくらいです。ちなみに、東京に残るために必死の努力をした修習生がたくさんいました。都内に勤務している異性を婚約者に仕立て上げた上、結婚式場を予約してまで東京残留を図った強者もいたそうです。

日本全体の人口流入では首都圏の一人勝ち状態ですし、世界的にも都市生活者の人口が急増しているようです。

世界全体の都市生活者の数が2010年には約36億人だったのに対し、2050年には約63億人になると推計されています。その理由として、スキルの高い人材が近くにいることのメリットと同類婚が増えるからだという説明がなされています。

一昔前は、地方と東京との間に大きな情報格差がありました。大学生になって、初めて東京の大型書店の受験参考書売り場を覗いた時の衝撃は今でも忘れられません。それまで見たこともなかった教材の山々を見て、「こんなに便利な教材が使えたら、受験勉強はもっと楽だったろうに」と、しばし感慨にふけりました。

しかし、昨今は、アマゾン等で有名な書籍は簡単に入手できるし、ネットを検索すれば有益な情報が溢れています。書籍以外の商品や食品も、ネットでいくらでも買うことができるようになりました。交通機関も発達し、昨今ではLCCで簡単に東京と地方を行き来できます(三重県には飛行場がありませんが…)。

都会と地方との大きな違いといえば、飲食店やレジャー施設の有無でしょう。ラーメン店などは、大人口を擁する地域でないと客数が見込めないので経営が難しいと店の人から聞いたことがあります。レジャー施設も、大人口の近くでないと入場者数が確保できずに経営が苦しくなります。確率的に100人に1人しか来なくとも、1000万人都市と10万都市では客数にして100倍の違いが出ますから。

将来的にも都市部への人口集中が必然的に続くのか、それとも地方都市が踏ん張るのか…小さな地方出身の私には全く予想がつきません。都市生活者の人口急増の理由である、「スキルの高い人が身近にいることや同類婚が増えること」は、決して多くの人々に当てはまることではありません。割合的に考えれば少数派ではないでしょうか?

都市の空気が肌感覚として人々を惹き付けるのでしょうか?東京育ちで田舎暮らしの経験の少ない方々の意見をお聞かせいただければ幸いです。

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荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。