観光農園化で収穫コストゼロ:補助金に頼らない!(最終回)

畔柳 茂樹

観光農園は効率的なシステム

今期も無事オープンした“ブルーベリーファームおかざき”では、連日、実にたくさんの方にブルーベリー狩りを楽しんでいただいています。当園の営業日は1年のうち60日あまり、その間は前職のサラリーマン時代を思い出すような休む間もない忙しさで、10名ほどのパートさんをお願いしています。

しかし、このシーズン以外の9か月半ほどは、私1人がほぼ週1で作業するのみという、週休5日のサイクル。ずいぶんと極端ですが、私はこのメリハリのある生活に非常に満足しています。

この生活を実現するために“生産性向上”を追求してきた経緯を、この連載でお話ししてきました。

連載最後に取り上げるのは、この“観光農園”というシステム自体。これこそが効率的であり、経営者とお客様の双方に数々の恩恵をもたらす、素晴らしいシステムだと実感しています。

約3000時間もの作業時間の削減を実現

というのも、ブルーベリー栽培において、最大のボトルネックは“収穫作業”です。一般的な出荷型のブルーベリー農家では、作業全体の中に占める収穫作業の割合は約60%を占めます。

しかし、観光農園化することによって、この手間のかかる作業をお客様にやっていただくため、収穫作業自体がなくなってしまうのです。

具体的に数字で説明すると、この農園のブルーベリー生産量は、ブルーベリーの樹1本当たりの平均収穫量5kgとすると5kg×1300本=6500kg(6.5t)となります。これを出荷するとなると熟練のパートさんでも1時間に2kg収穫して、良品を選別しパック詰めするのがやっと。6500kgすべてを収穫すると、6500÷2=3250時間必要になります。

これが観光農園を想定すると、この作業はすべてなくなります。私の農園では店頭売りもしているので、その収穫にかかる240時間を差し引いて、約3000時間の作業時間が削減されます。これを労務費に置き換えると、時給900円として900円×3000時間=270万円のコスト削減につながるのです。

さらに、出荷型の場合はブルーベリーの小売価格の30%~40%ほどの価格でしか買い取ってもらえませんが、一方、観光農園の場合は、中間卸業者を一切通さずダイレクトにお客様に販売するので、出荷型の卸売価格の2~3倍で販売することができるわけです。

しかも、この比較は、お持ち帰りを想定した場合ですが、観光農園では、はじめにブルーベリー狩りの食べ放題料金として大人は2000円をいただいているのですから、その収益は出荷型の場合とは比べ物になりません。

また、この農園にはレストスペースとカフェも併設しており、こちらの売上も夏のみで300万円近くにも上ります。

デメリットはイニシャルコストがかかること

ここまで、観光農園のメリットばかりお伝えしてきましたが、考えられるデメリットもお話ししておきましょう。

まず観光農園にするには、畑以外に駐車場、レストスペース、ログハウスなどの休憩施設、看板、広告宣伝費などのスペースと費用が出荷型農園に比べ余分にかかります。特にイニシャルコストがかなり負担になることはデメリットと言えます。

たとえば、当園の場合、苗木代も含めた養液栽培システムとして約1300万円、防風ネットや井戸掘削などの栽培補助設備で約400万円、ログハウス、駐車場、庭園整備で700万円、合計2400万円ほど投入しています。この金額は、業者に作業委託した場合なので、手間暇かけて自前で作業をやれば20%以上コスト削減できるでしょう。従って、2000万円以下の投資で済むはずです。

ちなみに、ランニングコストは、300~400万円程度と少ないものです。うちパートさんの労務費が大半の200万円以上を占め、その他、苗木代20万円、肥料代20万円、農薬に至っては数千円で済んでしまいます。

リスクのない事業はこの世の中になく、観光農園にしたところで、集客できなければ元も子もありません。しかし集客については拙著『最強の農起業!』(かんき出版)で詳しく解説していますが、地道にやれば、誰がやっても何とかなると思っています。そう考えると、「観光農園は、経営者とお客様はWin-Winの関係」であることに間違いありません。

補助金頼みの事業にはしない

農園内のログハウスで新刊発表会

ところで、農業には補助金と言う仕組みがあります。新規就農や新規に事業を立ち上げる場合など、補助金とセットで考えている場合も多いでしょう。もらえるものはもらえばいいという考え方ももちろんありますが、私はオススメしません。というのは、補助金をもらうことによってかなり制約を受けますし、補助金頼みの事業になってしまう懸念があるからです。多額の補助金を投入した事業を多くみましたが、うまくいっている事業はあまりありません。

たとえば、工夫すれば5000万円で済むハウスが、補助金のおかげで超豪華仕様になって1億円のハウスになったりします。日本の農業用設備に、グローバルな競争力がまったくないのは、この補助金の仕組みによるところも大きいと感じます。自腹を切り、借金することによって、誰しも真剣に事業に向き合うはずですが、そこに返済しなくていいお金が転がり込むことによって、依存的な経営体質になってしまうのではないでしょうか。

これも、異業種から参入してきた人間だからこそ感じたことかもしれません。

誰もが「自分の好きなことを仕事にできる」世界へ

私が試行錯誤の末にたどりついた“生産性”を突き詰めた新しい農業のノウハウを、私は自分だけのものにするつもりはありません。5回にわたるこの連載や拙著の内容を、セミナーや講演でも公開し、被災地復興プロジェクトとして「ブルーベリーハウス気仙沼」を手掛けたように、希望する人には観光農園プロデュースも行って、脱サラ起業を支援しています。

それは、私がひとりでも多くの人に「一度しかない人生、好きなことを仕事にしてほしい」と思っているからです。

大手企業の管理職で、地位と収入はあっても自由がないうつ病寸前の生活を送っていた私は、思い切って新しい世界に飛び込むことによって大きく生まれ変わりました。脱サラ起業と同時に、人生が劇的に好転したのです。

また、一度嫌気がさしてやめた前職の経験が、農業という異業種に参入してからも大いに役に立ちました。人生にムダなどないのかもしれないと、今は思えています。

起業するにあたって、決して大風呂敷を広げる必要はありません。リスクを極力取り除いて身軽な経営に徹することで、生活するには十分な収入が得られ、自由も獲得できます。

皆さんが「自分らしく生きる」ために、少しでもお役に立つことが、これからの私の使命でもあると考えています。

(連載おわり。構成:山岸美夕紀)

最強の農起業!
畔柳 茂樹
かんき出版

2017-06-07

 

畔柳 茂樹 (くろやなぎしげき)
農業起業家。愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。

愛知県岡崎市生まれ。早稲田大学卒業後、自動車部品世界No.1のデンソーに入社。40歳で事業企画課長に就任も長年の憧れだった農業への転身を決意。2007年、観光農園「ブルーベリーファームおかざき」を開設した。

起業後は、デンソー時代に培ったスキルを生かし、栽培の無人化、IT集客など新風を吹かせ、ひと夏1万人が訪れる地元の名物スポットへと成長。わずか60日余りの営業で、会社員時代を大きく超える年収を実現した。近年は観光農園プロデュースに取り組み、被災地復興事業として気仙沼にも観光農園を立ち上げた。これらの経歴・活動がマスコミで注目され、取材・報道は100回を超える。