韓国の文在寅大統領は30日、ワシントンで就任後初めてトランプ米大統領との首脳会談に臨むが、米韓関係は目下、決して良好とはいえない。米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の韓国配備問題について、文政権は適正な環境影響評価を行うことを決めるなど、配備の遅れが予想されているだけではなく、対北朝鮮政策で米国とのスタンスの違いが表面化しているからだ。
トランプ大統領は、「北が核実験、ミサイル発射を停止し、それが検証された後ならば北と対話に応じる用意がある」という立場だが、韓国側は、「北が核実験、ミサイル発射など挑発的行為を中断すれば、対話する」と表明している。前者は核・ミサイル開発の完全停止を対話条件としているのに対し、後者は「中断すれば」で止まり、それ以上の要求を控えている。だから、北側が得意としてきた瀬戸際外交が復活し、おいしい土産物を手に入れた後、核・ミサイル開発を再開するか、ひそかに開発を継続する危険性が排除できないわけだ。
朴槿恵前大統領時代はトランプ政権の対北政策と酷似していたが、文政権はいろいろな条件をあげてカムフラージュしている。とにかく南北首脳会談を実現したい、という文在寅大統領の個人的願いが垣間見える。
そのような時、北側が拘束していた米大学生を釈放した。しかし、学生は昏睡状況が続き、帰国後、数日で死去したというニュースが流れると、トランプ大統領は、「なんと残虐な行為を」と北側の非人道的なやり方に激怒。ティラーソン国務長官は、「北側はこの蛮行に対して厳しい報復を受けざるを得ないだろう」と警告を発しているほどだ。
ところで、聯合ニュースは「文大統領は死去した米大学生の遺族に弔電を送った」と報じた。
「北朝鮮に約1年半拘束され、昏睡状態で解放された米国人大学生オットー・ワームビア氏が亡くなったことを受け、韓国の文在寅大統領が同氏の遺族に弔電を送った。青瓦台の朴洙賢報道官が20日の会見で明らかにした」
文大統領はいつから北の大統領になったのだろうか。北側の謝罪は当然あってしかるべきだが、韓国大統領が率先して遺族に弔電を送ったわけだ。米国側からの厳しい批判の声に驚き、金正恩労働党委員長に代わって弔電を送ったといった印象を払しょくできないのだ。遺族関係者も韓国大統領から弔電を受け取って、「どうして韓国大統領が……」と戸惑っているかもしれない。
問題は次だ。文大統領は、「北は今も韓国や米国の国民を拘束しているが、直ちに彼らを家族の元に戻すべきで、政府はあらゆる努力を尽くす」と強調し、米韓が連携して米国人、韓国人の釈放を実現していこうと呼びかけているのだ
この発言を読んで、文大統領がなぜ「親北大統領」であり、「反日大統領」と呼ばれるのか、少し理解できた。文大統領は北に拉致された多くの日本人が帰国を願いながら生きていることを知らないはずがない。にもかかわらず、拘束されている米国人と韓国人に言及する一方、日本人拉致犠牲者を恣意的に無視しているのだ。
文大統領が「米国人、韓国人、そして日本人が北側に拘束されている」とでも述べていたら、それこそ大きな波紋を呼んだはずだ。「韓国大統領が日本人拉致犠牲者の釈放を呼び掛けた」というニュースが伝われば、嫌韓派の日本人も「おおー!」と驚きを発し、韓国大統領に対し少しは見直す機会となったかもしれない。
参考までに、文大統領は米紙ワシントン・ポストとのインタビューの中で、旧日本軍の慰安婦問題をめぐる2015年末の日本との合意の再交渉に意欲を示し、「日本がこの問題を解決するポイントは、その行為について法的な責任を負い、公式に謝罪することだ」と述べたという(「聯合ニュース6月21日)。
すなわち、文大統領は北側に拘束された人の中から恣意的に日本人拉致犠牲者を外す一方、日韓の慰安婦問題の合意問題にははっきりとその再考を要求しているわけだ。
いずれにしても、トランプ大統領は対北政策で一層強硬路線を取ることが予想される。米学生の死に対し、北の代行役を演じた文大統領に対してもワシントンから圧力が強まることは必至だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。