有能な人材をつなぎ止めるために、会社がBMWを提供する訳

GATAGより:編集部

米国の某携帯電話サービス会社は、勤続1年以上の全従業員にBMWのセダンを「無償」で提供しているそうです(過去形かもしれません)。

ジョン・グリシャム著の「法律事務所」でも、主人公が就職した法律事務所からBMWの新車が提供されるという場面がありました(映画の「ザ・ファーム」ではメルセデス・ベンツのクーペに変わっていたと記憶しています)。

このように、(とりわけ米国の)企業が高級車を従業員に提供するのは何故でしょうか?
会社が負担する車のリース料や保険は、日本円にすると年間100万円くらいになるので、従業員としてはその分の所得税を支払う必要があります。同じ貰うのであれば、100万円を現金で貰った方が嬉しいはずですが…?

ところが、この高級車の現物支給が”有能な人材のつなぎとめ”に大きな効果を上げているそうなのです。

その説得的な理由は、提供された従業員が、高級車に乗ることを(自分や他人に対して)正当化することができるからだと言われています。

現金で100万円を支給されると、そのお金を住宅の改装費や子供の教育費に当てなければならないというプレッシャーを感じる人がほとんどです。特に、自動車に全く無関心な配偶者がいると、「BMWを買うなんてとんでもない!」と非難され、勝手に買おうものなら離婚沙汰にも発展しかねません。

会社側がつなぎとめておきたい有能な人材は年俸も高いので、年俸を2000万円から2100万円に上げたとしても大きな喜びはありません(限界効用逓減の法則が働くのです)。配偶者に対しても世間に対しても、はたまた両親に対しても、気兼ねなすることなく高級車に乗ることが出来る方が満足度が高いということです。

日本でも同じような感覚を抱いているケースをよく見かけます。
私の友人は、バブルの真っ最中に約1億円のマンションを購入しました。5000万円は自分でローンを組み、残りの5000万円は「父さん、これは投資ですよ」と言って出してもらったそうです(名義は父子で共有)。当時の事情を差し引いても「息子を甘やかすのではなく自分の不動産投資なのだ」と父親に思い込ませた彼のやり方は見事でした。

夫婦間でも、夫のゴルフは「接待としての仕事」「情報交換としての付き合い」という理由が付いたり、妻の女子会は「育児・教育のための情報交換」という理由が付くことがあるそうです。独身諸氏の「自分へのご褒美」「自己投資」という名目も同じようなものでしょう。

このように考えると、私たちは純然たる「遊び」や「レジャー」にお金をかけるのことに、多かれ少なかれ後ろめたさを感じることが多いのです。旅行に行くにも、「子供の見聞を広めるため」とか「心身のリフレッシュは仕事の活力になる」といった言い訳を、つい考えてしまいます。

消費ではなく投資だと考えると、罪悪感がなくなるのかもしれません。

わたしたちは人生を楽しむために生きているのであり、苦しむために人生があるのではありません。であれば、堂々と「楽しむ費用」とか「人生費」と割り切ればいいはずですよね。

そうは言っても、イタリア人のような南欧的発想ができないのが日本人の悲しい性(さが)。衝動買してしまった4Kカメラ(アマゾンで8000円強)が届いた時に、「昨今の技術進歩を知るため」「動画ぐらい撮れないと時代に乗り遅れる」…等々、家族に対する言い訳をあれこれと考えている私であります(^_^;)

説得の戦略 交渉心理学入門 (ディスカヴァー携書)
荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年6月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。