デップは独語で「馬鹿」を意味する

長谷川 良

既に謝罪している人について、今更、ああだ、こうだと言っても余り意味がないが、やはり言いたくなる。米人気俳優のジョニー・デップさんが22日、英国の音楽祭で、トランプ米大統領の暗殺を促すような冗談を飛ばした。本人は後日、自身の発言への批判の大きさに驚き、「悪意はなく、誰かを傷つけるつもりもなかった」と謝罪している。

米国俳優のジョニー・デップさん(映画「パイレーツ・オブ・カリビアン、呪われた海賊たち」(2003年)のポスター)

考えてもほしい。デップ氏ではなく、普通の米国人が舞台の上から「トランプ大統領を暗殺しよう」と呼びかければ、警察のお世話になることは間違いない。デップ氏の場合、著名な俳優であり、その言動が日頃から常識外れが多いことで有名だから、「また、馬鹿なことを言って」といった程度で済まされるかもしれない。しかし、デップ氏よ、事は謝罪ぐらいで済ませられないほど深刻だ。

トランプ氏が大統領に就任してまだ半年も経過していないが、ハネムーン期間の100日などなく、就任直後からメディアのバッシングを受けている。そのような米大統領は過去、トランプ氏しかいないだろう。もちろん、かなりの責任は新大統領自身の暴言、失言、経験不足が原因で、本人の責任といえるかもしれないが、心配する点は国が選出された新大統領に対し、最低の敬意すら示していないようにみられることだ。

メディアやハリウッド界では伝統的に民主党支持者が多く、その言動はリベラルだ。彼らからすれば昨年11月の米大統領選でクリントン女史が新大統領に選出されていたならば、もう少し心が休まったかもしれないだろう。しかし、米国民は政治分野でまったく未経験の実業家出身のトランプ氏を選んだ。トランプ氏は大統領ポストを賄賂や脅迫で奪い取ったのではないのだ。民主的に選出された大統領を「暗殺してみたらどうか」と冗談でもいうべきではないのだ。

民主主義を日頃から誇ってきたリベラルなメディア、俳優たちが選挙で選出された大統領を最初からこき下ろすような批判、中傷を展開することは、民主主義への裏切り行為だ。メディアは批判することが仕事かもしれないが、偏見や嗜好が絡んだ批判はよくない。トランプ氏を罷免することを前提に事実を集めて報道すべきではない。

国民が批判する米大統領を外国が尊敬するだろうか。トランプ大統領は行く先々で国内と同じように批判にさらされている。トランプ氏が英国訪問をキャンセルしたのもその結果だ。反トランプ旋風を扇動する米国民は米国の国益を阻害していると理解すべきだろう。デップ氏もその一人だ。

ところで、デップ(Depp)は独語では「お人よし、のろま、馬鹿」を意味する。だから、馬鹿が冗談を言った、という程度で受け取ればいいのかもしれないが、自国の大統領の暗殺をそそのかすような冗談は明らかに許容範囲を超えている。

読売新聞によると、デップさんは観客に、「ここにトランプを連れて来てくれないか」と呼びかけ、ブーイングが起こると、「俳優が最後に大統領を暗殺したのは、いつだった?」と語ったという。1865年にリンカーン米大統領が俳優ジョン・ウィルクス・ブースに暗殺された事件を連想させたというのだ。もしトランプ大統領に後日、何か不祥事が生じたらどうするのか。

デップさん、ドイツ語圏を訪問された時は自分の名前の意味が何かを決して忘れず、脱線しないように賢明に振舞って頂きたいものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。