【映画評】ディストピア パンドラの少女

パンデミックにより、人類の大半が凶暴な捕食者“ハングリーズ”となった近未来。イングランドの田舎町の軍事基地では、生き残った少数の人間によって、ウイルスに感染しながらも思考能力を持つ“セカンド・チルドレン”からワクチンを作るための研究が行われていた。ある日、子どもたちの中に高い知能を持った少女メラニーが現れる。教師、軍曹、科学者らは、壊滅した基地を脱出し、メラニーを連れてロンドンを目指すが…。

人類の大半がゾンビ化した近未来を舞台に、奇跡の少女とともにサバイバルする人類の姿を描くSFスリラー「ディストピア パンドラの少女」。原作は、M・R・ケアリーによるベストセラーSF小説だ。ゾンビによる終末映画にはさまざまなパターンがあるが、本作は自然豊かな田舎町や森を抜け、廃墟のようになった大都会を彷徨い歩くという、静けさが特徴だ。英国らしいどんよりとした大気の中、人類はゆっくりと滅亡へと向かっている。グロテスクな描写は多いが、そこにヒーローはおらず、華々しいバトルも存在しない。

本来ハングリーズは、思考能力は持たず生きた肉のみを食するが、飢えへの欲求を抑えることができるメラニーは、純粋で賢く、特別な少女である。彼女の存在が人類救済への鍵になるのだが、この映画の絶望的なところは、人類が生き残ることが世界を救うことになるわけでもなく、人類が滅びたとしても世界が終わるわけではないという衝撃的な事実を突きつけることだ。ラストは正直、ツッコミどころが多い。だが、ギリシャ神話に登場する、あらゆる災いが詰まったパンドラの箱の底に残った希望とは、子どもたちの存在と教育だというメッセージなのだろう。メラニーを演じる新人のセニア・ナニュアが、素晴らしい存在感だった。
【60点】
(原題「The Girl with All the Gifts」)
(英・米/コーム・マッカーシー監督/セニア・ナニュア、ジェマ・アータートン、パディ・コンシダイン、他)
(グロテスク度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年7月4日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。