今週のメルマガ前半部の紹介です。先日、こんな記事が話題になりました。
要約すると、病気休職中の大手メーカーの社員が復職について労組に相談したら「規定どおりだからどうにもならん」と言われ労組脱退して社外ユニオンに個人加入したら解雇されそうになったという話。それと、大手運送業で未払い残業代を請求しようとしたら「愛社精神が無い」と労組の委員長に言われたという話です。
組織率も長期的に低下し続けているし、はたして労組はこれでいいのか?という論調ですね。
いい機会なので、日本企業における労働組合についてまとめておきましょう。メリットデメリットをよく理解すればキャリアデザインの上でも役立つはずです。
企業内労組は基本的に社内の一部門に過ぎない
結論から言うと、日本の企業内労組というのは、実態としては人事や経理といった部署と同じく、社内の一部門に過ぎません。その会社の正社員だけで構成されるのだから当然ですね。人事が経営層や管理職と話をしながら仕事をするのに対し、従業員と話をしながら仕事をするというだけのことです。
そして、実は誰よりも経営目線を持っている組織でもあります。たとえば株主は株売ったらそれっきりですし、経営陣もたいてい数年で卒業しますけど、労組だけは20年30年そこで飯を食っていく前提で考え、行動するためです。結果、日本企業の労組には以下のような特徴がみられます。
・長時間残業も厭わない
仕事が増えた場合、普通の国の労組ならこういうはずです。
「忙しい?だったら新しく人を雇えばいいだろう。自分たち労働者には関係ない話だ」
一方、日本企業の労組ならこういう感じです。
「また仕事ですか!いいですねぇ!がんがんこっちにまわしてください。新規採用ですか?人増やしちゃうと暇になった時に誰かがクビになるから残業でなんとかしますよ、三六協定結んで月150時間くらい残業出来るようにして対応しましょう」
同じ理由で全国転勤にも労組は協力的ですね。
・ストライキなんて絶対しない
労働基本権の一つであるストライキは憲法でも認められたものですが、わが国ではもう長いこと行われていません。当たり前ですね。ああいうのは業界全体で組織された産別労組みたいなものでやるか、流動的な労働市場の下でやるから意味があるんです。一社限定で、それも終身雇用でその後も長く飯を食うであろう会社でストやって売上げ減らしても、自分で自分のクビ締めるようなものですね。
・賃上げにこだわらない
他国の労組は賃上げにとても積極的で、経営側がどんなに先行投資や内部留保の重要性を説いても「我々には関係ない、今すぐこれだけ払ってくれ」と主張するものですが、この点でも日本の労組はとても協力的です。経営を安定させ、20年30年先も雇用を守るという視点を労使で共有しているからです。
ここ数年、春闘で政府が賃上げをせっつく一方で連合の要求が控えめなことが話題となっていますが、ムリヤリ賃金水準を上げ過ぎると後から経営を圧迫しかねないと連合は遠慮しているわけですね。
まとめると、労働市場の流動性が低く社内労組中心の日本では、労組が率先して残業や転勤に協力し、賃上げには抑制的でストもうたないということです。それを“御用労組”と言えばそうでしょうが、終身雇用の下ではとても合理的に行動しているというべきでしょう。
ちなみに、こうした良好な労使関係を維持するため、多くの大企業ではユニオンショップ協定というものを労使間で結んでいます。これは、その労働組合への加入を従業員に義務付け、脱退した人間を解雇するという労使間での取り決めです。これにより労組は何にもしなくても正社員を自動的に組合員に出来ますし、組合費も天引きしてもらえます。会社は共産党とか新左翼系の「しゃれですまない労組」の組織内への浸透を抑えられるという強力なメリットがあります。まさに労使一体の象徴のような協定ですね。
先のニュースで社外ユニオンに加入した従業員が解雇されそうになったのは、労使がこの協定を順守しようとしたことが理由ですね。
また、上記のような労使Win-Winの関係を理解していれば、民進党と共産党の野党共闘などありえない話だということも明らかでしょう。
以降、
労組は「働く従業員」の味方
労組はこう使え
Q:「東芝は半導体事業を売却したあとどうするんでしょうか?」
→A:「中の人たちも誰も分かっていない気がします」
Q:「海外でフリーで働いたキャリアは企業から評価されますか?」
→A:「立派に評価されます。ただし……」
Q:「クレバーな独裁とおバカな民主主義はどっちがマシでしょう?」
→A:「トップの権限が強い民主主義が理想ですが……」
雇用ニュースの深層
空前の売り手市場の裏で大企業は買い手市場という現実
実は就職氷河期の頃よりグローバル企業のハードルは上がっており、内定の一部優秀者への集中という現象が起こっています。
お給料は時価で貰った方がトクな時代
中国企業ファーウェイの初任給40万円は、多くの若年層に気づきを与えてくれるよいきっかけとなったことでしょう。
一斉に〇〇!というのははたして改革なのだろうか?
一斉に休む、一斉に退社する、月末金曜日は早く帰る、式のアプローチでは何の解決にもならんでしょう。
Q&Aも受付中、登録は以下から。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2017年7月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。