G20は今後、海上の空母で開催を

主要20カ国・地域首脳会議(G20)は今月7日から2日間の日程で独ハンブルク市で開催されたが、独メディアはその後も連日、G20の総括と課題について報じている。主要テーマはG20の政治課題の成果云々ではなく、開催地ハンブルク市内で展開された治安部隊と左翼過激派グループとの衝突についてだ。

▲G20の治安関係者に感謝するメルケル首相(ドイツ連邦首相府の公式サイトから)

はっきりとしてきた点は、G20のように世界から首脳が集まる国際会議は治安対策のためには、もはやハンブルクなど都市では開催できないということだ。主要交通ネットから離れた疎外地か、ニューヨークの国連か、さもなければ海上の航空母艦で開く以外に安全な開催はできなくなったといった声が治安関係者から聞かれるのだ。2019年のG20開催国の日本にとって、ハンブルクでの暴動は大きな警告を含んでいると受け取るべきだろう。

独週刊誌シュピーゲル(電子版、11日付)が報じたとことによると、治安部隊と衝突し、店舗を破壊、略奪、警察官への暴行などの罪状で拘留中の左翼過激派活動家の数は現在51人だ。彼らはドイツ人だけではなく、世界各地から破壊行為のためにハンブルクに集まった職業左派過激派活動家だったことが明らかになったのだ。

ハンブルク検察当局が公表した情報によると、拘留中の51人のうち28人はドイツ人、イタリア人6人、フランス人3人、オランダ人とロシア人が各2人、そしてオーストリア、スイス、スペイン、ルーマニア、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ギリシャ、ベネズエラ、セネガルが各1人だ。

拘束中の過激派活動家は主に16歳から30歳の若者たちだ。主要容疑は、身体傷害、公務執行妨害、器物損壊などだ。1人のドイツ人は警察ヘリコプターのパイロットに向けてレーザー照射したことから殺人未遂の容疑をかけられている。

ハンブルク市内の暴動の多くは政治的信条とは全く関係のないヴァンダリズム(破壊行為)に過ぎないという意見が支配的だ。「反グロバリゼーション」、「自由貿易協定反対」といった真剣なテーマを掲げていたデモ参加者もいたが、左翼過激派活動家たちの暴動はそれらの主張を完全にかき消してしまった感じだ。

反グロバリゼーションのグループ(Attac)は「意味のない暴動」と左翼過激派の蛮行を批判し、市民運動同盟は、「暴力フリーのデモでない限り、国民の心を捉えることはできない」と強調しているほどだ。

ところで、ハンブルク市内の暴動は社会民主党(SPD)、左翼党、「緑の党」らの左派系政党に少なからずの影響を与えるだろうと受け取られている。彼らは燃えあがる自動車、破壊されたショーウィンドウの写真を見て、左派系デモ活動の実態を目撃し、今秋に実施される連邦議会選への影響を懸念せざるを得なくなったわけだ。ちなみに、与党「キリスト教民主同盟」(CDU)関係者は「左翼党、緑の党、SPDは左翼過激派活動に対してこれまで目を瞑ってきた」と批判している。

シュピーゲルは「ハンブルクの左翼過激派の破壊行為は決してローカルの出来事ではない。SPD全体に大きな影響を及ぼすものだ。シュルツ党首やハンブルク市のシォルツ市長(SPD)はハンブルクの暴動について深刻に考えざるを得ないだろう」と指摘している。社民党は国内治安や国防問題には弱い、といった党のイメージを改めて想起させる結果となったというのだ。

シュルツ党首は、「ヴァンダリズムはテロ行為だ。警察部隊がわれわれの民主主義を守ってくれたことに感謝する」と述べ、ハンブルクの出来事を教訓としてシリアスに受け取っていることを示唆している。

なお、ハンブルク警察は170人までの捜査官からなる「特別委員会」を設置し、破壊行為を主導した活動家の割り出しに乗り出す意向だ。警察当局は「2000枚以上の写真とビデオを入手している。それらを慎重に解析し、過激派活動家を割り出していく」という。なお、左翼過激派の暴動で約500人の警察官が負傷した。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。