昨今、奨学金の返済ができなくて困っている若者の事がよく話題に登ります。月収10万にも満たないのに数百万円の奨学金債務を抱えているという人たちもいるそうです。
奨学金はれっきとした貸付であり、返済義務があるのは明白です。なぜ、彼ら、彼女らは奨学金という借金を返済できないのでしょうか?
今週号の「週刊東洋経済」に、大学・専門学校別の奨学金延滞率が掲載されていました。大学では至誠館大学が、専門学校では東京ダンス&アクターズ専門学校が延滞率トップで、名を連ねている大学の多くは初めて目にする大学名、専門学校はファッションやアート関係が多いという印象です。
もし、あなたが銀行の支店長だったら、仕事もなく(ノージョブ)資産もなく(ノーアセット)収入もない(ノーインカム)若者に、ダンサーやアクターになるための学費を融資するでしょうか?
私は、延滞率の高い大学を卒業した人物をたまたま知っています。中学時代の成績が劣悪で(おそらく九九もできなかったでしょう)、定員割れをしている過疎地の高校に通い、延滞率ランキングにある大学を8年間かかって卒業しました。
もちろん、(中小企業も含め)どこも雇ってくれるところはありません。幸い、彼は祖父母が裕福だったので奨学金は借りずに済みましたが、奨学金を借りて、九九もできないレベルの大学を卒業した他の学生たちは大変です。民間金融機関であれば、このような学生に融資することもあり得ないでしょう。
奨学金を貸している日本学生支援機構(JASSO)は文科省の管轄で、財源は税金です。現在5人いる理事のうち2人が文科省出身です(他の1人が日銀、1人が大学、1人が生え抜き)。税金を原資として、返済がほとんど不可能な若者に貸付を行い、それが文科省管轄の大学や専門学校に学費として流れる。大学に対する補助金同様、文科省はしっかり税金で縄張り固めをしているのです。
先述した九九もできない人物が大学に行くと知った時、「勉強が不向きなのだから、簿記でも機械技術でも専門分野を一つでもマスターした方がいいのに…」と思ったものでした。
国家として教育投資をする必要性は疑う余地はありません。
しかし、文科省の利権を守るために「広くて浅い」効果のない教育投資は、決してすべきではありません。せっかく、大学入試センター試験というものを実施しているのですから、一定基準をクリアした学生を対象に重点的に投資すべきでしょう。その程度の機能を持たせなければ、センター試験の存在意義はありません。
また、学業に向かないのであれば、実務に直結する簿記や会計、パソコン技能、工業技術、農業技術等々の分野に奨学金を振り向ければいいと思います。一定のレベルに達しなければ奨学金を打ち切るようにすれば、無駄遣いのモラルハザードは防げるでしょう。
意欲も能力もある優秀な学生が(奨学金では足りずに)有名大学に通えず、大学に進学しても教育効果がほとんど見込めない学生が卒業して返済に苦しむ。潤うのは大学や専門学校だけ。こんな状況、どう見てもおかしいと思いませんか?
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年7月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。