また、暑い夏がやってきた。来月、日本は72回目の終戦記念日を迎える。政府は、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」とし、全国戦没者追悼式を主催している。この時期は、多くのメディアで「戦争」や「改憲議論」に関する番組が放送される。政治団体・NPO等による平和集会が開かれるので、自ずと考える機会が増えてくる。
改憲議論が高まっているいま、過去の歴史に真摯に向き合うことは大変意義がある。今回は、米国人弁護士である、ケント・ギルバート氏(以下、ケント氏)の近著、『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』 (角川新書) を紹介したい。日本の歴史と政情に精通した米国人弁護士が、改憲論争の核心に迫っている。
憲法第9条が日本を守ったのか
――「日本には憲法9条があるから攻撃されなかった」と主張する憲法学者や政治家がいる。しかし、韓国は竹島を奪って占拠し、中国は尖閣諸島の実効支配のチャンスをうかがっていることから、その解釈は正確とはいえない。
「日本人にとって、〝平和〟というのは、やっかいな言葉だと思います。もともと法律用語ではないので明確な定義がありません。その人の主観が唯一の判断基準です。おそらく多くの日本人がイメージする〝平和〟の真逆である〝戦争〟の状態とは、大東亜戦争のときの空襲や生活困窮なのでしょう。」(ケント氏)
「だから相変わらず、『日本が戦後70年以上も平和なのは、憲法9条のおかげだ』などと、真顔でいう人が絶えません。彼らが考える〝平和〟が、いかに危うく、戦争と地続きであるかには思いが至らない。まさに平和ボケです。」(同)
――ケント氏は〝平和〟の条件について次のように答えている。
「あえて、定義のない〝平和〟の条件とは何かをいくつか挙げてみます。まずは、国境が画定していること。次に、経済が安定していること。政治も安定して、国内の秩序を乱す勢力があまりいないこと。さらに、戦争の抑止力となる必要十分な外交力と軍事力、その基盤である総合的な国力を持っていることなどが挙げられます。」(ケント氏)
「これらの条件を満たしていれば、その国は平和だといえます。日本の現状はどうでしょうか。日本の領土の最北端は、択捉島のカモイワッカ岬のはずです。大半の人は、この問題認識を忘れています。竹島、尖閣諸島、日本最南端に位置する沖ノ鳥島の保全は盤石でしょうか。つまり、日本の国境が画定しているとはいえません。」(同)
この機会に議論の深まりを期待
――このような現状を鑑みれば、憲法をどうするのか議論を深めることには、大きな意義があると思われる。
「私は、憲法9条と前文の存在こそが、日本の平和を脅かす諸悪の根源だと考えています。戦後の歴史がそのことを証明しています。『平和主義を掲げる日本国憲法第9条を守っていれば、日本は戦争に巻き込まれない』という『9条真理教』の人たちの論理は破綻しています。これは、1953年に発生した『竹島紛争』で明らかです。」(ケント氏)
「当時はまだ警察予備隊の延長で規模も小さく、朝鮮戦争のさなかにある韓国に対抗できる艦船など保有していません。外敵に対してほぼ丸腰、頼みの綱の在日米軍は朝鮮戦争の真っ最中で、国連軍に参加して韓国を支援していたので、韓国を攻撃するわけにもいかない。憲法9条は何の『抑止力』にもなりませんでした。」(同)
――ケント氏は、それ以来、不法占拠の状態が継続していると主張する。このように多角的な視点をもつことで多くのことが見えてくる。「自衛隊は必要だが憲法違反だ」「憲法9条を改正することには抵抗がある」。そのような人に本書をお奨めしたい。
参考書籍
『米国人弁護士だから見抜けた日本国憲法の正体』 (角川新書)
尾藤克之
コラムニスト
<第6回>アゴラ著者入門セミナーのご報告
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