米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は、米上院銀行委員会での議会証言で珍しい見解を披露しました。労働参加率の低下は、鎮痛剤の蔓延が一因と言及したのです。振り返れば、トランプ米大統領も「恐ろしい薬物の大流行」と懸念を表明、3月29日には米大統領令を通じ対策委員会を設立しました。世界で最も影響を与えたアーティストの一人、プリンスの死因も鎮静剤の過剰摂取と判断と特定されていましたね。
米国では”Opioid Epidemic”とも呼ばれその急速な普及が深刻な社会問題と化しています。2015年で薬物の過剰摂取で死亡した米国人の数は5.2万人で、10分間に1人が命を落としている状況。そのうち3.3万人、約3分の2がオピオイド=鎮痛剤で死に至っているのだとか。鎮痛剤には数種類存在し、麻薬で有名なヘロインも含まれます。
2015年の死亡者数は5万2,404人と、1999年から3倍近くも増加しました。男女別では過去14年間で男性が3倍増、女性に至っては3.5倍増と加速しています。
女性の伸び率が大きかったとはいえ、やはり人数では男性が女性を大きく上回っています。1999年から2015年までの死亡者数は、以下の通り。10万人当たりの死亡者数でも、男性は20人超えまで増加しました。
自動車事故の死亡者数や射殺と比較しても、その増加傾向は顕著です。
(作成:My Big Apple NY)
年齢別では高齢者というより、ミレニアル層のど真ん中である25~34歳の伸び率の加速が目立ちました。米大統領選では中高齢層の自殺者数の増加がトランプ氏の勝利に導いたとの仮説がありましたが、こうしてみると若手層の状況の深刻さにため息が出ます。
(作成:My Big Apple NY)
人種別の死亡者数では、医療保険に加入している割合が高い事情もあって白人が突出して多い。薬物を入手する金銭的余裕の違いも、人数に現れていると考えられます。
(作成:My Big Apple NY)
処方されるからとはいえ、いかに中毒者が増加し死亡につながっているかが分かりますね。全米マップをみると、ニューメキシコ州やネバダ州のほかラストベルトを抱え中西部や南部で集中している実態が浮かび上がってきます。
(出所:CDC)
経済に与える影響は無視できず、イエレンFRB議長が懸念を寄せるのも納得ですね。背景としてはミレニアル層を中心に所得の伸び悩み、向上しない生活水準などによる心理的な影響が考えられますが、米国経済の減速局面でこの数字がいかに変化するのか、注目です。
(カバー写真:Executive Office Health and Human Services/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年7月14日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。