きのう(7月14日)夕方、時事通信が報じたオーストラリアの二重国籍議員の辞職について、朝日新聞は翌日の朝刊で一行も報じなかった。紙面スペースでの割愛を「名目」に、報じないことも考えられるが、紙面で“ボツ”になった記事もウェブで報じられることもあるので、朝日新聞デジタルの記事検索をかけてみたところ、やはり報じていないようだ(15日17時30分)。
朝日が「知らなかった」はあり得ない
現地では、ABCニュースなどの有力メディアが報道しており、それなりの騒ぎになっているとみられる。もし朝日の駐在特派員が、出張や夏季休暇で留守にしていても、東京本社にある外報部で、内勤の語学堪能の部員が世界中の主要通信社から入ってくる外電に目を光らせていて、早い段階で辞任の報自体は把握できるはずだ。ましてや日本の通信社である時事通信が報道しているのだから、「知らなかった」ことはあり得ない。スコット・ラドラム上院議員本人のツイッターもあり、このネット時代、基礎情報の収集は容易だ。
そうなると、報じるかどうかニュースバリューの価値判断の問題になるわけだが、辞職することになったラドラム議員は、来日時には菅直人元首相と会談したこともあるとはいえ、野党幹部に過ぎず、日本国内では無名に等しい。
それでも、時事通信が速報したのは、やはり日本国内で蓮舫氏の国籍問題が注目されていることから、関心を集めやすいと判断したのだろう。
もちろん、朝日が朝刊で掲載していたとしても、国際面の端っこにミニニュースをまとめた「地球24時」コーナーに載るかどうか、「平時」ならボツになってもおかしくない程度のニュースバリューだ。それが紙面落ちしたウェブ版にすら一日経っても報道されなかったのは、やはり、何を報道し、そして、しないのか、そこには意図が働いている可能性がある。
池上コラムをボツにした反省は生きているのか?
平時の感覚で、ラドラム氏の日本国内での知名度の低さなどを理由にボツにしたのかもしれないが、もしも編集局の上層部で「社説で蓮舫の擁護をしたばかりで、このニュースを報じるのは都合が悪い」などと考えて不掲載を判断したのであれば、かつて、「慰安婦報道を謝罪すべき」と忠告した池上彰氏のコラムをボツにした3年前から体質は変わっていないのではないだろうか。
当時、慰安婦報道と合わせて池上コラム問題も検証した第三者委員会からは、こんな指摘があった。
「視野の非常に狭い、内向き の議論であって、事実を伝え国民の知る権利に奉仕するという報道機関としての役割 や一般読者の存在という視点を欠落させた」 (朝日新聞社第三者委員会報告書 85ページより)
社論に都合の悪いニュースが起きた時、ストレートニュースすら報じないというのは、この指摘を真摯に受け止めたのか疑念が湧いてくる。(もしかしたら、拙稿のような社外からの指摘を受けて、慌ててコラム記事等の形で取り上げてくるかもしれないが、それもまたいつものことだ、苦笑)
1行も報じない読売。保守紙としての躊躇
ただし、時事通信以外の日本のメディアは、総じて今回の件への関心が低い。朝日とは真逆で、蓮舫氏の国籍問題を厳しく追及している産経も15日夕方現在、ウェブ版でラドラム氏辞任を報じておらず、読売も同日朝刊を確認したところ、やはり記事もなかったし、ウェブ版でも報道されていない。
産経が報じていないのは、人的、物量的に手が回らなかったかもしれないが、読売が報じないのは、やはり、ラドラム氏の日本国内への影響度、知名度の低さだろうか。そういう判断もあるのかもしれないが、同じ保守系新聞でも、読売は、産経と比べて、蓮舫氏の国籍問題に関しては昨年の発覚時から歯切れはいまひとつ。「中国籍」の帰属をめぐる法務省解釈を巡っては、読売も毎日などと一緒に誤報したし、民進党の都議選総括を取り上げた先日の社説でも、終盤に蓮舫氏の国籍問題を取り上げたものの、メインの見出しにはしていない。
これは私の在職中の経験からの推測だが、保守層の関心が高い話題でも、産経が先鋭的に追及していると、読売はやる気をなくす傾向が伝統的にある。拉致問題がホットだった2000年代、産経が精力的に報道していた中で、読売社内では「あれは産経の“社もの”」、つまり「産経の自社イベント」とみなす空気があった。
今回も「国籍」という日本社会ではセンシティブな話題で、及び腰になっているのだろうが、アゴラで池田が書いているように、国籍だろうが学歴だろうが、中身は問わず、この問題は蓮舫氏が虚偽経歴をしていた疑いがある。その部分については、読売も追及しやすいはずだが。
アゴラ風に言えば、追及の仕方にはさしずめ、八幡的なアプローチ(国籍マター重視)、池田的なアプローチ(法律マター重視)の2種類があるはずで(笑)、産経が前者なら、読売は後者をもっと攻めてもいいのではないか。
豪州では議員報酬返上の話も浮上。日本とは対照的な光景
それにしても、メディアが及び腰 or 的外れなヒートアップをしている日本とは対照的に、現地オーストラリアでは本日(15日)、ラドラム氏の議員報酬返上の問題がクローズアップされ、ターンブル首相も財務大臣に過去の事例を含めて検討するように指示したようだ。(出典:ABCニュース)
蓮舫氏について問うているのは、いろいろあるが、最終的には議員としての適格性だ。国籍であろうが、学歴であろうが、事実と異なる経歴を掲げて選挙に通ったことは許されるのだろうか。戸籍の公開を求めることに反発している人たちは、議員であれば資産も公開していることについても人権やプライバシーの問題だというのだろうか。
蓮舫氏や取り巻きたちが我々を「差別主義者」などと名誉毀損のレッテル貼りをしたことで、私を本気で怒らせた。もう容赦はしない。ラドラム氏辞職を報じないメディアを尻目に、我々は最後まで追及する。