【映画評】彼女の人生は間違いじゃない

東日本大震災から5年後の福島県いわき市。市役所に勤めているみゆきは、週末になると、仮設住宅で二人で暮らす父親に、英会話教室に通うと嘘をついて、高速バスで東京へ行き、渋谷でデリヘル嬢として働いていた。ある日、みゆきは、元恋人から連絡を受け、やり直したいと言われるが、返事はせず言葉を濁す。亡き母との思い出に浸りながら、生きる目的を見失った父に対しても苛立ちを募らせる。そんなみゆきは、福島と東京を往復する日々の中で、さまざまな現実を目にするが…。

東日本大震災の傷を抱えながら生きる女性とその周囲の人々を描くヒューマン・ドラマ「彼女の人生は間違いじゃない」。廣木隆一監督自身による小説が原作で、自らメガホンを取った渾身作だ。中心になるのは、震災で母や家を失ったヒロイン・みゆきの、いつも満たされない心情である。なぜ身体を売るデリヘル嬢なのかという理由は明かされないが、震災以降、福島と東京が、実際の距離以上に遠のいてしまった溝と同じように、彼女の心の中の喪失感、憤り、悲しみ、不安は深く複雑なのだろう。映画は彼女の生き方を決して責めない。ヒロインは何を求めているのか。彼女はどう生きるべきか。簡単に出る答えなどない。

「ヴァイブレータ」や「さよなら歌舞伎町」などの廣木作品には、自分の居場所を求める人々がしばしば登場する。近年の作品には東日本大震災の影が投影されることが多いが、未来が見えずに生きる不安というモチーフには、普遍性がある。ヒロインを演じる瀧内公美の演技が繊細で素晴らしく、終始、彼女から目が離せなかった。みゆきと心を通わせるデリヘルの従業員役の高良健吾、自らも被災しながら懸命に生きる市役所の同僚役の柄本時生らも丁寧な芝居で好演。光石研演じるみゆきの父親が、自分なりの方法で妻の死に折り合いをつける場面は、本作の大きなクライマックスで、思わず涙ぐんだ。補償金を遊びにつぎこむ人、霊感商法の壺を売る男、卒論で震災を語ろうとする学生。それらはすべて実際のエピソードだという。そんな“負”の側面も、前向きに頑張る“正”の感情も、どちらも等しく存在する現実である。これは5年間の日常の絶望と希望が積み重なってできたストーリーなのだ。
【75点】
(原題「彼女の人生は間違いじゃない」)
(日本/廣木隆一監督/瀧内公美、光石研、高良健吾、他)
(リアル度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年7月18日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。