衆議院小選挙区の区割り改正公選法が施行。解散はいつでも可能に
衆議院小選挙区の区割り改正公職選挙法が今週16日に施行された。これによって安倍総理は、以降、新たな区割りでいつでも解散を判断する事ができるようになった。
来月冒頭で行われる内閣改造の直後は衆院解散の1つのタイミングではないかと思う。都議選での都民ファーストの圧勝を考えれば、「小池新党」の国政進出は、衆院選にも大きな影響を与える可能性が高い。その意味では、「小池新党」が全国に候補者を立てきれない段階での解散が1つの選択肢になるという事だ。
衆議院の任期は2018年の12月まであるが、逆に言えば来年12月までのどこかで解散総選挙を仕掛けなければならない。そう考えると、経済情勢もそろそろ結果が出てくるため、時間が経てば経つほど厳しい状況に追いやられる。個人的にはこれまで今年の年末総選挙と読んでいたが、年末年始だと対「小池新党」という面で厳しくなっている可能性が高くなった。
政権交代という状況にはならないが、安倍政権にとって重要なのは憲法改正に必要な衆議院での2/3の維持ということを考えると、経済財政の時限爆弾を抱えながら、一時のブームと小池新党のブームが去るまで時間を稼げば、自民党の支持率も上がるだろうとするには、逆にこの後の期間では少し時間が足らなくなる可能性がある。
新党や野党再編に十分な時間を与えて、麻生政権のように追い込まれ解散というよりは、短期的には唯一の支持率急上昇のチャンスである内閣改造に、小泉進次郎氏はもちろん、橋下徹氏まで入閣できれば、一気に解散総選挙の方が可能性があるのではないかと思うのだ。こうした前提から、今回は、小池新党ができた場合、どれだけの影響があるかを考えてみたいと思う。
都議選の都民ファースト圧勝は、そのまま国政へ
図表: 東京都議会議員選挙における各党獲得票数の推移
おそらく今回の都議選の結果を受けて、自民党本部では、早急に選挙区ごとにそのシミュレーションを行っているのではないと思うのだが、読者の皆さんとも小池新党が誕生した場合どういう事が起こり得るのかを考えてみよう。まず、127議席中55議席獲得と、都民ファーストの圧勝に終わった都議会議員選挙だが、今回は、各党の獲得票数とこれまでの推移から見て行くことにしたい。
圧勝の都民ファーストの獲得票数は1,884,030票と、2位の自民党の1,260,101票に1.5倍近くの差をつけた事になる。次いで3位になったのが共産党の773,723票、4位が公明党の734,697票となった。5位はさらにその半数程度の385,752票にまで落ち込んだ民進党だった。23議席で獲得議席数2位となった公明党が意外にも4位。
自民党は公明党と同じ23議席であることを考えると、死に票となってしまった票が多く、支持以上に議席を減らしてしまった事なども分かってくる。
一方で、議席ではこの2党には劣るものの、共産党もかなりの票を取っていることも見える。
2005年からの過去4回の都議選を比較すると、今回の都民ファースト以上に票を取ったのは、政権交代直前の民主党の2,298,494票だけである。
今回の選挙では圧勝の都民ファーストもさすがに当時の民主党を超えることはできなかった。
ただ、比較される事の多い1993年の日本新党が獲得した票は、わずか561,746票。今回の共産党・公明党にも満たない。獲得議席も当時の日本新党は公認が20人、推薦を入れても27人だった事を考えると、今回の都民ファーストの凄さがあらためて分かるはずだ。
ちなみに過去4回の都議選での自民党の最多得票は2013年の1,633,303票と、都民ファーストの今回の票を超えた事はない。今回の選挙だけを見るとどの報道も「自民歴史的大敗」という見出しだったが、自民党のこの4回の得票を見ても2009年は1,458,108票、2005年は1,339,548票である事を考えれば、最低ではあるが、この4回での上下はそれほど大きくないことも見えてくる。公明党も共産党も今回の健闘もグラフで見ればほぼ横ばいの推移とも見える。
そんな中、極端に票を減らした政党が2つある。1つが民進党であり、もう1つが維新の会だろう。維新の会は前回の374,109票から54,016票へと約1/7とその割合から見れば最も減らしたことになる。もちろんこの背景には候補者の数自体が大幅に減っていることもあるが、それを踏まえても大幅に減ったことは間違いない。
一方の民進党は前回の690,622票から385,752票まで約半数になった。民進党については、前々回の8年前、政権交代の直前には2,298,494票を獲得していることから比較すると、当時から約1/6にまで減らしているという事になる。こうした事を考えても、むしろこの都議会議員選挙を深刻に受け止めなければならないのはどの政党なのかという事は言わずもがななようにも思う。
「小池新党」は国政進出するとどれだけ勝てるのか
今回の都議選の結果は、政権にとってはとんでもないインパクトを与えているはずだ。
最大のポイントは、解散時期によっては、国政政党としての「小池新党」が大幅に議席を獲得するというシナリオが信憑性を帯びてきたからだろう。
この点についても、都議選結果同様にこれまでの衆議院総選挙における比例区東京における各党の獲得票数の推移についても見ていくことにしよう。
自民党のカーブこそ若干異なるものの、その形状が極めて似ている事が見て取れる。
公明党のポジションによって獲得議席は変わってくる可能性はあるが、少なくとも各党の獲得票数については、都議選と同様の結果が出る可能性が高いのではないかと思われる。
図表: 衆議院総選挙(比例)の東京都における各党獲得票数の推移
ちなみに東京都内の選挙区においての各党の獲得票数についても見ていくと、自民党は小泉旋風の中の2005年の総選挙で獲得した2,665,417票が過去4回の中では最多で、一方で民進党政権交代の起こった2009年の選挙でも1,764,696票を獲得していることなども分かる。実際にはその後自民党がさらに政権交代した2012年の1,626,057票の方が少なかったりもする他、自民圧勝となった2014年の前回の総選挙でも1,847,986票と獲得票はそれほど変わらないことも分かる。
一方、民主党は政権交代時の2009年に過去4回の最高得票となる2,839,081票を獲得しているものの2012年には1,008,011票、2014年には939,795票とほぼ1/3まで減らしている。その他で言えば、維新が2012年の1,298,309票から816,047票へ2/3に減っているが、維新の場合、党の離合集散でメンバー構成も選挙ごとに変わっているので、単純に比較すべきかどうかという部分もある。
もう1つは、共産党で2012年には484,365票だったものが、2014年には885,927票と約2倍になっている事にも触れておこうと思う。
ただ、大きな傾向全体で見ると、都議選結果と同じような傾向と言えるように思う。
「小池新党の影響は東京都周辺だけの限定的」は本当か?
図表: 衆議院総選挙(比例)における各党獲得票数の推移
もう1つ言われることが、「都民ファーストが圧勝といっても所詮地域政党だ」との声だろうか。このことから指摘されるのは、「国政政党化してもその影響は東京周辺に限定」とのことだが本当だろうか。
そこでさらに東京選挙区だけでなく日本全体の衆議院総選挙における比例区の各党獲得票数の推移も同じようにグラフ化してみる。極端に違うのは2012年の「諸派」の獲得表の多さだけで、そのほかの傾向はほぼ同じように見えないだろうか。
ちなみに2012年の総選挙の際には、民主党が分裂して一方の票がここでは便宜的に諸派としていることなどが影響しているだけだ。こうして考えると、少なくとも単純化した全体のトレンドデータにおいては、近い段階で衆議院総選挙を行った場合、都議選と同様のことが東京選挙区はもちろん、全国的にも同じような傾向が出る可能性があるということだ。
票数でも紹介しておくと、過去4回で最も獲得しているのは、政権交代時の2009年の民主党の29,844,799票、次いで多いのが郵政解散による小泉劇場時代の2005年の自民党の25,887,798票。自民党は下野した2009年の選挙ですら18,810,217票を獲得しており、前回の自民圧勝の2014年の17,658,916票よりも多いなど、その大枠の傾向は、都議選の推移とも、東京に限定した総選挙の推移とも大きく変わらない。
もう1つ注目するとしたら、似たように改革をうたった都市政党だと言われた「みんなの党」の傾向だろうか。東京都内においては、2009年の選挙では419,903票だったものが、2012年には762,730票へと2倍弱になっているが、全国においても、2009年時に3,005,199票だったものが2012年位は5,245,586票担っていることを見ると、「首都圏限定」というよりは、「全国どこでも同じような傾向が起きる」と見た方がいいのではないかと考えられる。
特に総選挙の場合は、マスコミ報道も増え、全国放送で同じ情報が流れることを考えれば、こうした結果になってくることが予想できるのではないだろうか。
小池新党は民進党離党ドミノ受け入れか、それとも自民党からの合流があるのか
こうした中で、では小池新党が国政政党化するとして誰が入ってくるのかである。
先月も高橋亮平コラムの中で、『【小池新党の可能性】小池知事代表就任・若狭氏自民に離党届のタイミングで橋下氏維新政策顧問辞任』と書いたところだが、都議選後の7月9日のフジテレビの番組では、出演した若狭勝 衆議院議員が、「今後、国政新党が作られるのは、都議選結果を踏まえて自然だ。少なくとも年内に動きが出てくる」と述べ、都民ファーストの会の主張を反映した国政政党を年内に設立したいとの考えを示したと報道される。
みんなの党の代表も務めた渡辺喜美 参議院議員においては、先月、『船橋市長選・市議選に渡辺喜美が応援に?小池新党や新たな第三極の布石なのか』とコラムに書いたところ、その4日後に副代表を務めた日本維新の会に離党届を提出。維新の会はその日のうちに離党届を受理せず除名にした。渡辺議員は翌日記者会見し、「都民ファーストの会」との連携を模索する考えを示している。
民進党を離党した長島昭久 衆議院議員も、これまでのコラムでも紹介してきた通りだが、今回の都議選では都民ファーストの候補たちを応援した。
さらにこのコラムでも以前から名前を挙げている松沢成文 参議院議員も含め、都民ファーストの会の多くの議員の事務所に為書きを送ったとされる。
多くのメディアで紹介されている国会議員はここまでだが、都民ファースト候補のいくつかには、この他にも渡辺喜美議員にも近いと言われる元みんなの党の行田邦子 参議院議員の為書きも貼られていたようだ。
また、松沢議員については、都議選での都民ファーストの追い風を受けて、そのまま今月16日に告示となった横浜市長選に立候補するプランもあったようだ。個人的には、こっちはこっちで面白かったのではないかと思うのだが、行った事前調査が都民ファースト旋風の前で、この選択はなくなったようだ。
メディア報道では、4人をあげて、政党要件まであと1人などと煽っているものもあるが、実施には、既に人数は足りており、既に役職をどうしていくかという段階のように聞こえてくる。また、松沢氏の周りには既に5人以上の議員がいるなどとも言われており、都議会同様にどの層の議員たちが多数派を取るか、また主導権を取るかといった綱引きになっていきそうだ。
図表: 都民ファースト東京都議の出身別人数
都議選の際も、候補者の公認推薦の際から、都民ファースト候補に占める出身母体の割合を示してきたが先日も書いたように、当選した都民ファースト都議の内訳は民進党12名、自民党10名、維新の会1名、共みんなの党3名、無所属3名、議員経験のない希望の塾出身26名といった形になった。
マスコミ報道にあるように、国政政党になればそれに乗りたい政治家は多数いる。特に民進党からは都議選の際同様に、国会議員からも大量離党が予測されている。すでに都議選の投開票の当日夜、民進党の藤末健三政調会長代理が離党届を提出している。藤末議員といえば参議院の3期目で。民主党政権時代には総務副大臣まで務めた議員だ。これまでにも当初からコラムで書いてきた柿沢未途 衆議院議員についてもその可能性は残り続けている。民進党においては今回の都議選の責任者たちの名前さえ上がりつつある。こうした状況からもほっておいたら都議会同様に民進党離党ドミノは国政においても止まらない可能性すらある。
国政政党を作った際には、衆議院解散までには、新たに決まった全国289の選挙区に候補者を擁立していく事になるが、これが大きなハードルにはなる。ただ、一方で、その候補者のほとんどが民進党からの離党組、さらに民進党と実質的な合併による新党結成という事であると、国民の期待がそのまま国政政党にも乗るかという疑問もある。
もう一つ、逆の可能性についても考えておきたい。小池新党に自民党の方から割って出て合流する可能性だ。
都知事選の際からコラムにも書いてきたが、都知事選の際に秘書を出して裏小池選対を作っていたと言われているのが石破茂 衆議院議員と平将明 衆議院議員である。また小池氏と非常に親しいと言われている議員としては、野田聖子 衆議院議員などもいる。
自民党を割って、こうした議員が出てくる事になると、小池新党は台風の目どころか、政権選択政党という事になってくる可能性もある。石破氏が総理になりたい事は、以前から言われている事であるが、現状の自民党の中では清和会と大宏池会の2大勢力が構成されつつある中では、党員には人気があったとしても、総裁選で勝つことはなかなか難しい。小池氏も知事をいきなり辞める事は考えにくい中では、次の総選挙における野党の総理候補のポジションは空いていると言えば空いてる。
政界再編という意味で言えば、昨年8月に書いた『「小池新党」ができれば雪崩を打ち日本の政局を大きく変える可能性がある』でも触れたように、過去に成功した新党は、いずれも自民党を割って出てきた議員たちが作った政党である。もう一度、自民党までもを巻き込んだ政界再編を期待したいと思う。
高橋亮平(たかはし・りょうへい)
一般社団法人政治教育センター代表理事、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員、中央大学特任准教授等を経て現職
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