経営者の資質が問われる時代

荘司 雅彦

「もう一つの戦略教科書 戦争論」(守屋淳著 中公新書ラクレ)を読みました。昨今のニュースで、株式の相互持ち合いが10%を切ったと報じられたことと併せ斟酌すると、企業経営者(取締役等)の人的資質がますます重要になっていることを痛感しました。

私の処女作「男と女の法律戦略」(講談社現代新書)を書くにあたって、守屋氏の「孫氏・戦略・クラウゼビッツ」が大変参考になりました。同書から得たイメージでは、クラウゼヴィッツの戦争論が「1対1の決闘の延長上でやり直し可能」であるのに対し、孫氏の戦略は「ライバル多数でやり直しができない」というものでした。

男女問題に限らず、法廷闘争というのは「1対1の決闘」のイメージがありますが、実際の利益状況は「ライバル多数」と考えるのが妥当でしょう。

男女の離婚問題一つ取ってみても、夫と妻だけの問題ではなく、子供や双方の親、不倫相手、勤務先、共有名義マンションのローンを借りている銀行…等々、利害関係者はたくさんいます。妻が「子供の親権と養育費だけで十分」と思っていても、夫が勤務先をリストラされてローンも支払えなくなり、養育費だけでなくローン債務まで降りかかってくることもあります。一人の相手に勝利して一安心していると、思わぬところから思わぬ敵が牙を向いてくるのなのです。

本書「もう一つの戦略教科書 戦争論」の第2章「天才の条件」は、(安定株主に地位を守られていた昔の経営者と異なり)人的資質が問われる今日の経営者に必須の条件でしょう。

従来の日本の組織は、組織の力関係をまとめる「調整型リーダー」が経営者になることが多かったようです。しかし、同書の説く「勇気や胆力」はたまた「全体を俯瞰する知性」がなければ今の組織の長となる資格はありません。法令遵守が必須で、コーポレート・ガバナンス・コードを守り、適法適切かつ株主重視の経営をやっていくのに、昔ながらの”なあなあ”では済まされないのです。

「勇気や胆力」は、修羅場を多数経験することによって養うことができると同書で説かれています。幸いにして、今の時代は孫氏と違って(クラウゼヴィッツ的に)「やり直し」が効く時代になりつつあります。スティーブ・ジョブズの例を挙げるまでもなく、技術進歩が速く、社会構造の変化の激しい時代では、一度敗れても新たな場面で再起することは十分可能だと私は考えます。

私なりに解釈すれば、環境的には(孫氏的な)「日々進化しているライバル多数」の状況ではあるものの、自身や自社も(クラウゼヴィッツ的な)「辞めない限り再起が可能」な状態ではないかと考えています。

以上は、あくまで借り物の知識による私の勝手な解釈ですので、関心のある方は守屋氏の著書に直接あたられることを強くお勧めします。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。