ファンドマネージャーはリストラされても、不動産ブローカーはいなくならない理由

投資信託など金融商品の運用を行っている資産運用会社は、これから大きな変化の波にさらされようとしています。2つの大きな波は、インデックス化とAI(人工知能)です。

アクティブ運用の世界最大手であるフィデリティ・インベストメンツが、先週数百人の従業員を解雇する方針を表明したそうです。恐らく、同業の資産運用会社も追随していくことになるはずです。

機関投資家だけではなく、個人投資家もアクティブからインデックスに運用方法をシフトさせていくことによって、アクティブ運用に強い資産運用会社は経営状態が悪化しています。生き残りのためには、M&Aによる規模の拡大か、人件費の削減しかありません。残高の小さなファンドを整理し、ファンドマネージャーをリストラすることでコスト競争力を高める動きが加速するはずです。

さらに、ファンドマネージャーの判断業務を、AI(人工口知能)が代替する動きも始まっています。公開されている大量のデータを短時間に分析し、相関関係からマーケットの予想をするのは、人間より機械の方が優れています。野村総合研究所によると、将来的には、人間の判断能力が機械に勝る投資期間は5年以上の長期のみになると予想されています。

ファンドマネージャーがゼロになることは無くても、今よりは劇的に少ない人数になっていくことは、誰でも想像できると思います。

AIは金融だけではなく、不動産にも広がっています。例えば、AIを用いてマンションの現在の販売価格が適正なのかを分析するツールなども登場しています。このような分析データによって、誰でも「適正価格」を簡単に知ることが出来るということですが、私は懐疑的です。

国内の不動産取引に関しては、公開されているデータが不十分で、分析のためのデータが圧倒的に不足しています。実際、中古ワンルーム取引も大手は自社物件を取り扱い、販売物件を公開していません。値引きされる場合もあり、正確な売買成約価格もわかりません。また、金融商品より単価の高い不動産取引では、AIで価格が合理的に提示されたとしても、購入者の多くは簡単には納得できないと思います。人間が介在することで、メンタルな安心感が得られるメリットがあります。

さらに不動産投資においては借入がポイントになりますが、金融機関との交渉は個別性が強く、こちらもAIによる代替はハードルが高いと言えます。

実際に自分で投資してみて実感するのは、金融取引と不動産取引には大きな違いがあるということです。AIで不動産マーケットの分析が進めば、投資判断の参考になることはあると思います。しかし、個別の売買を担当する不動産販売会社の仕事をAIが代替することは無いでしょう。不動産取引は金融取引よりも複雑で奥が深いのです。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2017年7月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。