霞ヶ関で爆発した終身雇用の「不満のマグマ」

池田 信夫

NewsPicksが「官僚たちの逆襲」という特集をやっている。官邸主導から官僚を解放し、雇用が流動化してろくな人材のいなくなった役所にエリートを取り戻せというが、これは問題を真逆に見ている。

アメリカでは、官僚は自由に動く。トランプ大統領になると1000人以上が民間から政治任用され、オバマ政権の幹部はクビになるが、彼らは「回転ドア」で民主党系のシンクタンクに行ったり、民間企業に行ってロビイストになったりする。

こういう雇用流動性があれば政治任用の弊害は少ないが、日本のように終身雇用だと、安倍政権に逆らって左遷されると不満がたまり、加計学園のようなしょうもないネタをマスコミに売り込んで騒ぎを起こす。

内閣人事局のできたときから、こういう人事に対する不満のマグマが官僚に貯まっていたようだ。いま官僚の標的になっているのは菅官房長官で、各省の官僚は「内閣の意向を振り回す」とか「安倍政権にゴマをする幹部が出世する」という。

これは筋違いである。いやなら役所を辞めればいいのだ。日本でも戦前の法制局や内務省の幹部は政治任用だったが、GHQが陸軍省と海軍省と内務省をつぶしたとき100%内部昇進になった。この結果、戦後は各省が決定して内閣が承認する官僚内閣制になった。安倍政権の改革は、これを国民に選ばれた首相が公務員の人事を決める議院内閣制のルールに戻すものだ。

政治任用には弊害も多い。専門的知識のない「お友達」や大口献金者が役所の幹部になることが多く、幹部をすべて交代するのに1年以上かかる。トランプ政権は、幹部のなり手がいなくて大幅な欠員が出ているが、雇用に流動性があれば政権交代が機能する。

他方、日本のように外部オプションがないと役所にしがみつくしかないので、不満が役所に鬱積して反乱を起こす。これが文科省のような弱小官庁なら大した問題ではないが、防衛省のように制服組が情報漏洩して大臣を追放しようと画策すると、文字通りクーデタになる危険がある。

このように政治任用と雇用流動性には制度的補完性があり、どちらかが欠けると機能しない。日本のような官僚主導とアメリカのような政治主導のどっちがいいかは一概にいえないが、『失敗の法則』でも書いたように官僚主導は柔軟性に欠け、部分最適に陥りやすい。

ここで安倍政権が敗北すると「官僚のいやがる決定をする政権は長続きしない」という前例ができ、役所に丸投げする昔の自民党政治に戻る。こういう安全運転では、向こう10年は憲法改正はおろか、規制改革も税制改革もできないだろう。

政権が気に入らないというなら「反安倍」のデモなんかしなくても、選挙で政権を倒せばいい。官邸主導と政党政治にも補完性があり、政権交代というオプションがあればよい。日本の本質的な問題は、政党政治が機能していないことである。