配偶者のいる相手と性交渉を持てばいわゆる不貞行為(不倫)となり、相手の配偶者から慰謝料請求されることがあります。もちろん、慰謝料請求は民事案件なので、請求するか否か、いくら請求するかは配偶者の意思によって決まります。
配偶者の代理人になって不貞行為の相手方に慰謝料請求をすると、(意外に思われるかもしれませんが)訴訟等に発展することなく訴訟外の和解が成立することの方がはるかに多いのが実情です。
代理人弁護士として委任を受けて慰謝料請求する以上、それなりの証拠は掴んでいますし、慰謝料の相場も概ね決まっているので、相手方としても無意味な争いを避けるのでしょう。反対の立場で、不貞行為の相手方から相談を受けた場合、不貞行為が明白で証拠が掴まれているなら(弁護士費用を払ってまで)法廷闘争するより、請求者が納得するギリギリの金額で和解するよう勧めています。
法廷闘争になる場合、不貞行為の相手方の多くは「破綻の抗弁」を出してきます。講学上は「抗弁」ではなく「一部否認」というのが正確ですが…。
つまり、原告である配偶者らの夫婦関係は従前から破綻していたので、破綻後に性交渉を持ったとしても「円満な夫婦生活」を破壊した訳ではない。よって「円満な夫婦生活」を破壊されたこと起因する精神的損害を賠償する義務はないという理屈です。
多くの場合は苦し紛れの抗弁なのですが、判例を見ていると被告(不貞行為の相手方)が気の毒に思える事案が時々見受けられます。その典型が、夫婦が2、3年別居している程度では、夫婦関係が破綻しているとはいえないという判決です。結果として慰謝料請求を認めています。
単身赴任のようなやむをえぬ事情があるのなら別ですが、一方が同居を拒否して別居に踏み切って2年も経てば、社会常識から考えれば夫婦関係は破綻していると判断できるのではないでしょうか?離婚の話し合いや離婚調停の申立をしていなくとも、「別居して2年以上経つ」となれば、不貞行為の相手方が「もう円満な夫婦とはいえない」と考えるのは無理からぬことだと思うのですが…。
不貞行為を行った配偶者も、相手方に対して「もう2年以上別居しているし、間もなく離婚が成立する。正式に離婚が成立したら結婚しよう」などというピロトークをしているでしょうし。
個人的には、(単身赴任や仕事上の都合など正当な理由なく)夫婦が別居して1年以上経過していれば、(離婚を認めるか否かは別として)不貞行為の相手に対する慰謝料請求を棄却すべきだと考えます。
理由としては、「円満な夫婦生活」を破壊したという「損害」が発生しなかったとしてもいいでしょうし、「故意・過失」がなかった認定できる場合もあるでしょう。ちなみに、水商売の女性の枕営業が不貞行為とされなかった理由は「法的に保護すべき利益の侵害がなかった」というもので、前者の「損害」の要件を否定したものでありました。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年7月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。