【映画評】ビニー/信じる男

自惚れ屋のボクサー、ビニー・パジェンサは、一度は引退を宣告されながらも、飲んだくれだが優秀なトレーナー、ケビン・ルーニーの指導で徹底したトレーニングを行って勝利をつかみ、チャンピオンになった。だが直後に交通事故により頚椎(せきつい)を損傷するという大怪我を負ってしまう。ボクシングへの道は絶たれたかに思えたが、歩くことさえままならないビニーは再起を決意。ケビンと共に命懸けのリハビリを行って、スーパーミドル級チャンピオンを目指してトレーニングを始める…。

奇跡のカムバックを果たした元ボクシング・チャンピオン、ビニー・パジェンサの生き様を描く実話「ビニー/信じる男」。ロードアイランド出身のビニー・パジェンサは1962年生まれ。ギャンブル好きのお調子者で自惚れ屋だが、ボクシングへの情熱は誰にも負けない。そんな男が大事故からカムバックを果たす物語は、スポーツ映画によくある“再起”の実話だ。だが脊椎損傷からのボクサー復帰は、簡単なカムバックではない。ボクシングはおろか、歩くことさえ無理と言われても、首を固定するためにまるで中世の拷問器具のようなリハビリ装具を付けての生活を強いられても、彼はあきらめなかった。安全な方法の治療を拒否し、命がけのカムバックを目指したのは、ただ寝ているだけの人生に何の価値も見出さなかったからである。

ボクシング界の裏事情やビニーの周囲の雑念もリアルに描かれる。金儲けしか眼中にないプロモーター親子や、息子を愛しながら支配しようとする父親がいる一方で、現実は、トレーナーのケビンでさえ、最初は「危険すぎるから復帰は諦めろ」と言うほど絶望的だった。そんな複雑極まる状況の中、ビニーが言う「本当はすべてのことはとても単純なんだ」という言葉が、ボクシングというスポーツの本質を突いている。四角いリングの上で殴り合い、強いものだけが勝つ。なるほど単純だ。だからこそボクシングの栄光の輝きは無条件に人々を魅了するのだろう。「セッション」で注目された若手実力派マイルズ・テラーは、セコい小悪党からヒーローまで、演じる役柄の振り幅が大きい俳優だが、本作では見事な肉体改造と精悍な表情で役者魂を見せている。実話がもとのスポ根映画として見応えがあるが、何よりも自分を信じ続ける勇気と信念の力強さに心を打たれる物語だ。まさに事実は小説より奇なり、である。
【70点】
(原題「BLEED FOR THIS」)
(アメリカ/ベン・ヤンガー監督/マイルズ・テラー、アーロン・エッカート、ケイティ・セイガル、他)
(信念度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年7月25日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式YouTubeから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。