二重国籍者も置き去り:最後まで口先だった蓮舫氏

新田 哲史

昨日(7月27日)朝、蓮舫氏の代表継続と衆院転出が極めて困難だと書いた矢先、辞職の一報があった。

国籍問題は最後まで反省の色なし。しかも稚拙な「自己否定」

引き際まで説得力を書いた強弁に終始し、汚泥に塗れたような見苦しさだった。国籍問題の影響について「私の国籍に関しては今回の判断には入っていません。まったく別次元の問題です」などと頑強に否定しているあたり、全くもって反省の色が微塵もない。

その強弁が、百万歩譲って政治的求心力を辛うじて保つためのものだったとしても、底の浅さを感じたのはこのやりとりだった。どこのメディアも言ってないようなので、これは指摘しておきたい。(書き起こしはログミーを参照)

FACTA・宮嶋氏「参議院議員であるということは、ある種のやはり弱点というか、遠心力と、限界ということがあったのかどうか」

蓮舫氏「まず前段の部分は、それを感じないと言ったら嘘になるとは思っています」

つまり、蓮舫氏は参議院議員の立場で代表選に臨んで就任しておきながら、衆議院議員が代表だった場合との「格差」を認めてしまったわけだ。中学生の公民の教科書でも学ぶように予算、条約、首相の指名等において衆議院の優越があるのは自明の理なわけだが、それでも、参議院は、長年「良識の府」を謳って曲がりなりにも対等であるべきという自負があったはず。

決して「不運」ではない。そもそも「実力」がなかったのだ

おそらく政治的戦略として、二重国籍問題を保身のために否定しておきながら、なんという中途半端さ、浅はかさであろう。衆参の格差を認めてしまっては、参議院議員として政党の代表を務めてきた根本を自己否定することにつながり、今後、参議院議員が主要政党の代表を務めることの限界があることを、自らの言葉で知らしめてしまったというのは、稚拙だったとしか言いようがない。

辞任のようなネガティブ事象の記者会見では絶対に言ってはいけないこと、潔く認めるべきことの2軸をしっかり打ち立てて臨む必要がある。もちろん記者会見では事前の想定問答を超えるようなやりとりがあるのが普通ではあるが、そういう場面だからこそ、人間力や政治家としての価値観といった根源が問われるし、明らかになる。絶対に言ってはいけないこと、潔く認めるべきことの峻別すらできない人物が、野党第1党だったことに呆れかえる。

山本一郎氏は保守論客を自称しながら随分と蓮舫氏に擁護的で「不運だった」と論評しているが、「運も実力のうち」という言葉がある。いや、彼女には、党首として、そもそもの実力も適性もなかったのだ。だから、昨年の代表選で蓮舫氏に1票を投じた議員や党員は、自分たちの眼力のなさを恥じるが良い。

多重国籍者の問題は実質的に放置したままの退任

先述の拙稿で予見した通り、衆院転出も口先だけに終わった蓮舫氏だが、せめて自らの国籍問題を逆手にとり、グローバル化と日本の入管制度の在り方を問いかけるくらいは存在意義はあったはずだ。戸籍謄本を公開した先日の記者会見でも私の質問に対し、国籍法改正について今後取り組むと力強く語った直後の代表辞任には、あきれるしかない。

実際、党内からも失望の声が出ている。無戸籍問題の専門家で、元民主党衆議院議員である井戸正枝氏(民進党東京4区支部長)もブログで苦言を呈している。

残念なのは、今日の会見にいたるまで、既に社会的課題となっている「二重国籍」や「国籍法」そのものの問題と正面から対峙しているようには見えなかったことである。

今日は「二重国籍問題」や「戸籍開示」についての質問も出た。
「二重国籍問題」についての言及は「辞任の理由ではない」という文脈でだけだった。

私は政治家の二重国籍は反対だが、50万人とも言われる一般の民間人の多重国籍に対しては、この著しいグローバル化にあって、日本の現行の国籍法が妥当なのかどうか、今後の制度設計も含め、しっかりと政策議論はしたほうが望ましいと考えている(だから「アゴラが人種差別的だ」など吹聴している左派の学者やメディア関係者は間抜けであり、おバカ認定をしてさしあげている)。

蓮舫氏に直接問いかけた中でも、自民党・河野太郎氏の2008年私案などのベンチマーク政策があり、民主党時代には政策インデックスにも入っていたわけだから、政策で答えを出すチャンスだった。しかし蓮舫氏は、種を蒔くことすらせず、代表の座を辞してしまった。ただでさえ国籍に関して異様にセンシティブな日本社会。蓮舫氏が表舞台を去ってしまえば、後任の執行部は、おそらく党内議論すらまともにするインセンティブがなくなるだろう。

国籍問題に限らない。いつまで野党の口先政治に付き合わされるのか

蓮舫氏の自己保身で国籍問題が視野の狭い政争に終わってしまい、本質的な政策議論に発展せず、結果として二重国籍者たちは置き去りにされたままだ。政争が激しかった割に当事者にとって政策的になんの進展もなかったという現象は、国籍問題だけに止まらず、いまの日本政界で見慣れた光景になってしまっているのではないか。結局、蓮舫氏も民進党も「多様性が大事」などと謳いながら、また口先で終わってしまうのだろうか。

【おしらせ】今夜(28日)午後8時より、「言論アリーナ」の緊急特番をニコニコ生放送でお送りします。詳しくはこちら。ニコ生放送後の録画はYouTube「アゴラチャンネル」でご覧いただけます。

新田 哲史
ワニブックス
2016-12-08