達人の技!生クリームには塩を入れると旨くなる?!

写真は青山氏(夜ふかしマングローブ/琉球放送RBC)

「塩分を摂取しすぎると高血圧になる」ことは誰でもしっている。戦前~60年代頃、日本人の食塩摂取量は20g/日を超していたが、厚労省が10g以下/日を奨励してからは、減塩ブームが日本各地にひろがった。現在では、食塩摂取量の平均値は、10.0g(男性11.0g、女性 9.2g)となっている(出典:平成27年度 国民健康栄養調査結果・厚労省)。

今回は、『日本と世界の塩の図鑑』(あさ出版)を紹介したい。ソルトコーディネーター、青山志穂(以下、青山氏)の近著になる。青山氏は、琉球放送RBC(夜ふかしマングローブ)という番組の「ソルト&シネマ」というコーナーをもち塩の魅力を伝えているそうだ。

塩は腐敗を防ぎ発酵を調整する

――塩には浸透脱水作用があるため、腐敗を抑えたり発酵を促す効果がある。

「腐敗菌の増殖には『温度・水・栄養』が必要になります。食材から水分を抜いて水分活性を下げると同時に食材内の水分と結合しながら塩分を蓄えることで、腐敗菌が入り込んで繁殖することが防止できます。発酵は、微生物によって起こる現象です。最初に、塩の濃度を調整することが必要です。」(青山氏)

「食品に含まれる水分量や塩分量を調整し、それぞれの微生物に最適な環境をつくってください。味噌や醤油、漬け物の製造工程で役立っています。」(同)

――塩には酵素の働きを止めて、たんぱく質に作用することもあるようだ。

「塩には酸化酵素の働きを止め、食材の色を鮮やかに保つ作用があります。知られているのは、りんごを薄い塩水に漬ければ褐変を防ぐことができること。ゆで野菜にも塩は欠かせません。適量を加えれば鮮やかな緑色を保つことができます。野菜ジュースに塩を加えると、ビタミンCが破壊されるのを防ぎます。」(青山氏)

「塩には加熱されたたんぱく質が凝固するのを促進する作用、そして、たんぱく質を溶かす作用があります。下ごしらえの際、魚や肉に塩を振るのは、うまみを含んだ肉汁が流れ出すのを防ぐためです。」(同)

――少々、具体的に教えてもらいたい。

「ゆでたまごのゆで湯に塩を入れると、塩の味がつくだけでなく、中身のはみ出しを抑えてくれます。魚のすり身をつくる際に、塩を入れると粘り気が出るのは後者の作用です。また、乾燥大豆を塩水に漬けてから調理すると、大豆のたんぱく質が溶けるため、早くやわらかく煮ることができます。」(青山氏)

塩は適量であることが大切

「生クリーム200mlに塩をひとつまみ入れると、入れない場合より早くしっかりしたキメ細かな角が立ちます。また、塩の対比効果でコクが増し、生クリームの味が濃厚になります。ちょっとした裏技ですがお試しください。あくまでもひとつまみです。」(同)

実は、筆者(尾藤)は生クリーム好きである。夏のホイップは、すぐに温まるので注意が必要だが試しにやってみた。ボウルを冷やす氷にも塩を振らなければいけないが、ほんのひとつまみプラスする。そうすると、生クリームの油脂の安定して固くなった気がする。裏技だと思うがお試しいただければ実感できるだろう。

――さて、話題を変えるが、ここで塩に関するエピソードを紹介したい。徳川家康の側室だった「お梶」(家康には“お梶”と呼ばれていた。落飾後に「英勝院」に改名)には興味深い逸話が残されている。家康が家臣たちと談笑をした時に「およそ食べ物のうちで、うまいものとはどんなものか」と、「お梶」にも尋ねてみた。

「家康の質問に、お梶は次のように答えたようです。『塩ほど調法で、うまいものはありますまい』と。一番まずいものは何かと再び家康が尋ねると、『それも塩です。塩味が過ぎれば食べられません』と答えたそうです(故老諸談より)。調理は塩加減によって味が変わってきます。」(青山氏)

「塩というのは、あらゆる食材の味を活かし引きたてるものです。ですから、『うまい』という答えは間違いではありません。また、すべての味を殺すのも塩ですから、『まずい』という答えも間違ってはいないのです。どの塩を使うかも重要ですが、塩加減をコントロールすることが大切でしょう。」(同)

――「お梶」はその聡明さから家康の寵愛を受けていたようである。

減塩ではなく適塩を心がける

「人には、それぞれに合った適度な塩の量(適塩)があります。居住地域、生活環境、運動頻度、年齢、性別、身長や体重など、生活の状態によって、1日に失われる塩の量もさまざまです。つまり必要とされる塩の量はさまざまですから、必要な塩分量というのは、日によっても、個人によってもバラバラです。」(青山氏)

「自分の状況を把握し、その日その時に応じた『塩の摂り方をすること』。これが、『健康的に塩を摂取する』ということではないかと思います。」(同)

――いまの季節は食材の足が早い。塩を上手く使うことで、健康的に夏を乗り切りたいものである。なお、生クリームに「塩」もお試しあれ。

参考書籍
日本と世界の塩の図鑑』(あさ出版)

尾藤克之
コラムニスト

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